現在も同じ立場かどうかは分からない

この2005年寄稿は、20年以上前のものであり、現在でも同じ立場を彼女が保持しているか否かは不明である。

保持していたとしても、上記寄稿は「私案」――しかも選挙に敗れ議員失職していた時期の「私案」――にすぎず、首相・自民党総裁として自らがいま公的にとる立場とは違うと主張する可能性はある。しかし、立場が変わったのなら「変わった」、変わってないのなら「変わってない」と、はっきり、選挙中にそう言うべきであり、9条改正という日本の安全保障に関わる緊要な問題について現在の自己の立場を曖昧にしたままにして逃げるのは、政治家として卑劣である。

この点はともかく、過去に公表した「私案」だとしても、ある時期の高市が個人として主張していた見解なので、参考までに一言しておく。

高市私案は、憲法9条自体の改正に関する部分と、別の関連条項の改正に関する部分とから成る(以下、前者を「本体改正部分」、後者を「関連改正部分」と呼ぶ)。

「本体改正部分」では、1項から4項までで「国防軍」と呼ばれた戦力を自衛目的に限定して保有し行使できることを明認している。その上で、戦力統制規範としては5項で「国防軍の最高指揮権は、内閣総理大臣がこれを有する」として文民統制を明定するだけである。

ただし、「関連改正部分」の7項で「法律の定めるところにより、最高裁判所の下に、軍事規律上の犯罪に関わる裁判を行う特別裁判所を設置する。(七十六条改正)」と定めており、「軍事規律上の犯罪」が国防軍による交戦法規違反の武力行使を意味するなら、これは現憲法下における戦力統制規範欠損の重要な一部を埋め合わせるものと言える。

ただ、「軍事規律上の犯罪」という語は曖昧あいまいで、上官の命令への不服従や任務懈怠けたいなど、国防軍の指揮命令系統に反した行為を意味するにすぎないとも解釈可能で、国防軍の武力行使に対する交戦法規統制を貫徹する軍事司法の導入を求めるものとは直ちには言えない。

危険極まりない「国家緊急事態宣言」制度

高市私案の最も危惧される問題は、関連改正部分1項から6項までで規定している「国家緊急事態宣言」制度にある。

1項で、「内閣総理大臣は、法律の定めるところにより(防衛・治安・災害・資源等)、国家緊急事態宣言を行い、国防軍による出動を命じる……」とし、2項で国会緊急事態宣言に対する国会統制として「原則として事前に、事態の緊急性によっては事後に、国会に対し説明を行い、その承認を得なければならない」としている。

拙著で再三指摘してきたたように、防衛に関しては一旦国防軍が出動して交戦状態になった後、国会が事後承認を拒否したから撤兵するといっても相手側が反撃を止める保障はなく、むしろ相手側の攻勢が激化する蓋然性が高いため、事後承認は事後追認になるのが通例であり、国会承認を事後でよしとするのは国会統制を形骸化するものでしかない。

陸上自衛隊
写真=iStock.com/Josiah S
危険極まりない「国家緊急事態宣言」制度(※写真はイメージです)