昇格拒否を「正解」にするため必要な、価値観の軸
そんな田岡さんの周囲には、組織で上り詰めなくとも生き生きと働いている人が多いそうです。その象徴的なエピソードとして、2人の知人の話を紹介してくれました。
「例えば、ある企業で『良きナンバー2』におさまっている知人がいます。差し当たり、本田宗一郎における藤沢武夫(本田技研工業 元副社長)のような存在でしょうか。あの人がいるから組織が回ると周囲に言われるほど有能なのですが、決してトップにはなろうとはしません。
ある企業の経営企画室で出世頭だったのに、突如退職してカレー屋さんを開業した知人もいます。なんでも、自分にとって『家族との時間』を持つことが何よりも大切だと、ある時気づいたそうなんです。カレー屋さんとしての彼の戦略は『週3日のランチ営業だけで生計を立て、残りの時間はすべて家族と過ごす』というもの。結果としてお店は繁盛していますし、少なくとも私の目には、非常に納得感のある働き方を選び、幸せそうに映ります。
いずれのエピソードも昇格と直接関係ないのかもしれませんが、キャリアを考える上で『自分は何を大切にしたいのか』という価値観の軸を持つことの大切さを教えてくれます。昇格に絡めるなら、価値観の軸がはっきりしていれば、昇格を断ることも、逆に引き受けることも納得感のある選択になりうると言えるのではないでしょうか。
心理学の世界では、自分の価値観に沿った仕事ができている時、人は最も幸福を感じると言われています。他人と比較して、管理職になれない自分を卑下したり、ならない自分を正当化したりする必要はありません。大切なのは価値観の軸をどこに置くかです」
昇格拒否を上司に納得してもらうための、アサーティブ・コミュニケーション
とはいえ、上司からの昇格オファーを断るのは勇気がいるものです。上司との関係をギクシャクさせずに自分の意思を伝えるにはどうすればよいのでしょうか。
「まずは期待を寄せてくれたことに対して、感謝の言葉を伝えましょう。その上で、客観的な事実を引きながら、自分の意思を添える。
例えば、『今、このチームには特定の技術に精通した人間が足りていません(事実)。ですから、私は管理職ではなく、その分野を極めることでチームに最大限貢献したいと考えています(意思)』といったように。
こうした伝え方は『相手の意思を尊重しながら自分の意思を述べる』という意味合いで、アサーティブ・コミュニケーションとも呼ばれ、伝えづらいことを伝えるためのコミュニケーション技術として昨今重視されています。
ポイントは、ただ『やりたくない』と言うのではなく『組織のために自分がどう貢献するのが最適か』という視点で主張することです」
昇格する・しないにかかわらず、定期的な「キャリアのピットイン」を
昇格すべきか、昇格を拒否すべきか。そんなキャリアの迷いを抱えながら働く若手ビジネスパーソンに向けて、田岡さんは「学び続けること」と「自分を見つめ直す時間」の重要性を語ります。
「私はよく『キャリアにはピットインのタイミングが必要だ』とお伝えしています。レース中のF1マシンのように、定期的に立ち止まってタイヤを替え、燃料を補給しなければ、最後まで走り切ることはできません。
日々の仕事に追われて忙しいなかでも、半年に一度、一年に一度でもいいので、今の自分の価値観はどこにあるのか、どんなスキルを磨きたいのかを見つめ直してください。
そして、いかなる状況においても学びを止めないこと。学んだ結果できることが増えれば、セルフイメージも上がります。セルフイメージが上がれば、自分の人生を自分でコントロールしているという感覚も持てるようになるはずです」
田岡さんの話から、管理職になるか、ならないかはあくまで「キャリアの選択肢」の一つとして捉えれば良いということが分かりました。
どちらの道を選んだとしても、自分をアップデートし続けていれば、選択肢を持ちやすい状態でキャリアを築いていくことができます。つまり、昇格拒否を「生存戦略」にできるかどうかは、これからの学びと行動次第なのです。
【出典】※マイナビ転職『管理職の悩みと実態調査』
取材・編集:はてな編集部 制作:マイナビ転職


