昇格拒否を「生存戦略」にするため必要な視点

そうした前提を踏まえてもなお昇格を拒否することは、正しいキャリアの選択となりうるのでしょうか。田岡さんは「キャリア自律ができているかどうかが分水嶺になる」と語ります。

なりたい姿や極めたい専門性があり、そのために今は管理職を引き受けるべきではないと判断するなら、それは立派な生存戦略でしょう。私もかつて上司からの昇格オファーを拒否したことがあります。やりたい仕事、なりたい将来像が明確にあったからです。結果として、その判断が今の私のキャリアを支えています。

しかし、『なんとなく大変そうだから』という消去法での拒否は、中長期的にキャリアの選択肢を狭めてしまう可能性もあります

だからこそ、自分の適性や目指すキャリアがまだ見えない人は、あえて昇格のオファーに乗る選択肢もあると言います。

「心理学で『ジョハリの窓』というフレームワークがあります。自分が知っている(知らない)自分と他人が知っている(知らない)自分を視覚化した図で紹介されることが多いのですが、この中の『他人は知っているが自分は知らない自分』という領域こそ、キャリア成長のカギとなります。

「ジョハリの窓」を視覚化した図
画像提供=MEETS CAREER by マイナビ転職
「ジョハリの窓」を視覚化した図。右上が「他人は知っているが自分は知らない自分」

上司から昇格をオファーされるということは『管理職としての適性』を見込まれている証拠。自分は『向いていない』と思っていても、やってみたら意外な才能が開花することはよくあります。

そもそも管理職になると、手に入る情報の量が増えたり、見える世界が変わったりします。すると、今までと同じ業務にも多様な意義ややりがいをもって向き合える、収入が増えてモチベーションが上がることも考えられます。

自分の可能性を自分で狭めてしまうのはもったいないので、上司の評価を信じてオファーに乗ってみるのも、キャリア上悪くない選択でしょう」

昇格拒否しても「リーダーシップ」は必要不可欠

「管理職にならない=専門性のみを突き詰めるスペシャリスト」というイメージが持たれがちですが、異なった視点も必要だそうです。田岡さんは、スペシャリストとしてキャリアを構築する場合も、高いリーダーシップやコミュニケーション力が求められると言います。

「リーダーシップとは役職に応じて発揮されるものではなく、『人を巻き込む力』のことです。

どんなに優れた専門性を持っていても、人や物事を動かせなければ、そのスキルの市場価値は上がりません。昇格しないのであれば、なおさら肩書きに頼らず人を動かす力を磨かなければ、キャリアも行き詰まってしまうでしょう。

逆に言うと、管理職にならなくても人材育成には関与できるということです。例えば『なぜ仕事がうまくいったか』『なぜ仕事がうまくいかなかったか』を当人が振り返れるような『良き質問者』になってあげるとか」

さらに、管理職にならない選択をする際のリスクヘッジとして、田岡さんは「社外人脈」の重要性を説きます。

「管理職になると、社外との交渉や会食の機会が増え、社外人脈が広がる場合もあります。しかし、スペシャリストにとどまる場合、意識的に外に出なければ、その視界は狭まってしまいがちです。社外に多様な人脈を持つことは『井の中の蛙』になるのを防ぐ意味もあるのです。

私自身、40代になってようやく社外の人脈作りに力を入れ始めましたが、今でもその時に培ったネットワークに助けられることが多々あります。20代、30代のうちから、社外の勉強会やコミュニティに顔を出し、異なる価値観に触れ続けておくことは、役職を持たないキャリアを歩むうえでの生命線となるはずです