※本稿は、安藤なつ(メイプル超合金)、繁田雅弘『知っトク認知症 家族と本人が自分らしく暮らし続ける超入門』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
「忘れること」そのものは病気ではない
認知症外来には日々、「親のもの忘れがひどくて……」と不安を募らせたご家族が、ご本人を連れて来院されます。しかし、実際に検査をしてみると、認知症ではなく「加齢の範囲内」だったというケースも少なくありません。
人は年齢を重ねれば、若いころより記憶力が落ちるのは自然なことです。「こんなに忘れるなんて、絶対におかしい」と驚かれるご家族もいますが、老化の進み方には大きな個人差があります。周囲より少し老いのペースが速いからといって、すぐに病気と決めつけるのは早計です。
そもそも「もの忘れ=認知症」という考え方は、非常に単純化されたイメージにすぎません。専門医であっても、どこまでが自然な老化で、どこからが認知症なのかを一度の診察で判断するのは容易ではないのです。大切なのは、「忘れたこと」そのものではなく、生活全体にどのような変化が起きているかを冷静に見極めることです。
老化と認知症を分ける「日常生活への影響」
老化によるもの忘れと、認知症によるもの忘れ。この2つを分ける最も重要なポイントは、「日常生活に支障が出ているか」という一点に尽きます。
たとえば、老化によるもの忘れでは、「食事のメニューを思い出せない」「買い物に行って何を買うか忘れる」「日付や曜日を間違える」といった失敗が起こることがあります。ただし、これらはヒントをもらえば思い出せたり、あとから「ああ、そうだった」と気づいたりすることが多く、生活全体が大きく崩れるわけではありません。
一方、認知症では事情が異なります。決定的な違いは、「昨日の献立(体験の一部)」を忘れるのではなく、「食事をしたこと自体(体験そのもの)」が抜け落ちてしまう点にあります。外出についても、単に買うものを忘れるのではなく、「なぜスーパーに来たのか」という目的そのものが分からなくなることがあります。こうした状態になると、日常生活そのものが回りにくくなってしまいます。


