思い出せないのは、脳の「検索機能」が不安定なだけ

ここで誤解してほしくないのは、「思い出せない=記憶が完全に消えた」というわけではないという点です。

特に認知症の初期に見られる「最近のことから忘れる」という現象は、正確には記憶を失ったというよりも、新しい情報が「まだしっかり身についていない(定着していない)」状態に近いといえます。わたしたちの脳内では通常、海馬という部位が情報の振り分けを行っています。認知症によってこの働きが弱まると、情報の整理がうまくいかず、データは脳内に入っているのに、うまく取り出せない(検索できない)という事態が起こります。

家族がショックを受けやすい「名前の間違い」も同様です。実の娘を「お姉さん」と呼んだり、亡くなった親の名前で呼んだりすることがあります。しかし、これはあなたの存在を忘れたのではありません。脳内では、顔・名前・思い出などが一本の糸でつながっていますが、その結びつきが少し不安定になっているだけなのです。