思い出せないのは、脳の「検索機能」が不安定なだけ
ここで誤解してほしくないのは、「思い出せない=記憶が完全に消えた」というわけではないという点です。
特に認知症の初期に見られる「最近のことから忘れる」という現象は、正確には記憶を失ったというよりも、新しい情報が「まだしっかり身についていない(定着していない)」状態に近いといえます。わたしたちの脳内では通常、海馬という部位が情報の振り分けを行っています。認知症によってこの働きが弱まると、情報の整理がうまくいかず、データは脳内に入っているのに、うまく取り出せない(検索できない)という事態が起こります。
家族がショックを受けやすい「名前の間違い」も同様です。実の娘を「お姉さん」と呼んだり、亡くなった親の名前で呼んだりすることがあります。しかし、これはあなたの存在を忘れたのではありません。脳内では、顔・名前・思い出などが一本の糸でつながっていますが、その結びつきが少し不安定になっているだけなのです。
たとえるなら、「Wi-Fiがうまくつながらない状態」のようなものです。通信が不安定でデータがパッと表示されませんが、元のサーバー(脳内の思い出)には情報が消えずに残っていることは多いのです。ですから、名前を間違えられても「自分は忘れられた」と悲しまないでください。むしろ、本人にとって親しい人の名前で呼ぶのは、あなたをそれだけ身近で安心できる存在だと感じている証拠でもあります。
「老化か認知症か」を見分ける3つのチェックポイント
とはいえ、「どこまでが老化で、どこからが認知症なのか」を家族が判断するのは難しいものです。そこで目安になるのが、次の3つのポイントです。
①ヒントをもらうと思い出せるか
老化によるもの忘れでは、「ほら、昨日はハンバーグだったでしょう」と助け舟を出されると、「ああ、そうだった」と思い出せることが多いものです。一方、認知症の場合はヒントがあってもピンとこないことがあります。
②生活の段取りが保たれているか
多少のもの忘れがあっても、料理や買い物、約束などの日常生活が問題なくできていれば、老化の範囲であることが多いでしょう。逆に、家事や予定の管理などの段取りが急に難しくなってきた場合は注意が必要です。
③その症状が継続しているか
たまたまの失敗なのか、継続している変化なのかを見ることも大切です。半年ほど同じような状態が続いている場合や、頻度や増え方が加速してきた場合は、一度専門医に相談してみるとよいでしょう。
もちろん、これだけで認知症かどうかを判断することはできませんが、受診を検討する際の大きな手がかりになります。
