※本稿は、安藤なつ(メイプル超合金)、繁田雅弘(認知症専門医)『知っトク認知症 家族と本人が自分らしく暮らし続ける超入門』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
認知症の人は「自覚がない」のではなく「気づいている」
世間では「認知症になると、本人は自分の変化に気づかなくなる」と思われがちです。しかし、これは大きな誤解です。診断のかなり前から「何かおかしい」と、本人が違和感を抱いていることが少なくありません。
以前は問題なくできていたことに時間がかかったり、思わぬ失敗が増えたりする。そうした変化に戸惑いながらも、「年のせいだろう」「疲れているだけだ」と自分に言い聞かせてやり過ごしているのです。心の奥では、不安は少しずつ積み重なっていきます。そんなとき家族から「最近おかしいよ」「病院へ行ったほうがいい」と言われると、図星を突かれたような衝撃を受けることがあります。
「大丈夫だ」と強く否定するのは、変化に気づいていないからではありません。むしろ、自分の変化を感じているからこそ認めるのが怖いのです。
なぜ病院を嫌がる人が多いのか
自分の異変を敏感に感じているからこそ、周囲からの指摘は深く突き刺さります。すると本人は「もう失敗できない」と自分を厳しく律し、必要以上に緊張して過ごすようになります。
ところが過度な緊張は、さらに失敗を招きます。焦ってミスをし、自信を失い、また緊張する――そんな悪循環に陥ることも少なくありません。家族が異変に気づいた頃には、長い間、出口のない恐怖と戦い続け、心身ともに疲弊しているケースも見受けられます。
特に今の高齢世代では、認知症は「恥ずべきこと」「家族の迷惑になること」と捉える強い偏見(スティグマ)が残っています。認知症が「痴呆」と呼ばれていた時代、地域の中で認知症の人が孤立していく様子を、幼い頃に見聞きした記憶を持つ人も多いからです。
そのため「認知症と診断されたら人生が終わるのではないか」という恐怖が、受診を遠ざける大きな壁になることがあります。


