「半年受診が遅れても」取り返しのつかないことはない
家族が受診を急ぐ背景には、「早く確定診断を受けて、薬を飲めば進行が止まる」という期待があるでしょう。しかし、専門医の立場から言えば、本人の心が折れるリスクを冒してまで無理に病院へ連れて行くメリットは多くありません。
強引な受診は、「家族に裏切られた」「無理やり病人にされた」という深い不信感を生むことがあります。認知症の場合、受診が半年ほど遅れたとしても、それによって取り返しのつかない事態に陥ることはまずありません。むしろ時間をかけて本人の不安に寄り添い、納得できるタイミングを待つほうが、その後の治療や介護はスムーズに進みます。
認知症のケアは長い時間をかけて続くものです。最初の段階で本人の気持ちを損なうと、その後の関係がずっとギクシャクしてしまいます。「あなたが決めていい」「元気でいてほしい」と寄り添い続けることが、その後の支えになります。
本人に「受診を自分で決めた」と思わせることが大切
では、本人が受診を拒んでいるとき、家族はどう声をかければよいのでしょうか。
ポイントは、「病院に行くかどうか」の二択を迫らないことです。
やってはいけないのは、「絶対に病院へ行くべきだ」「今すぐ行かなければだめだ」と押し切ることです。強い言葉で説得すると、本人は「自分の意思を否定された」と感じ、心を閉ざしてしまいます。
代わりに、「このまま様子を見る」「半年後にまだ困っていたら受診する」「不安だから一度相談してみる」というように、同時に複数の選択肢を示すと、本人の心理的な負担は軽くなります。
また、「最近忘れっぽいよね」と責める言い方ではなく、「ちょっと心配なんだ」「元気でいてほしいから、一度相談してみない?」と、家族の気持ちを伝える言い方のほうが受け入れられやすくなります。
加えて、「誰が声をかけるか」も重要です。家族の中でも関係性によって反応が変わり、孫や甥・姪など少し距離のある人からの言葉のほうが素直に受け入れられることもあります。
つまり、受診することを本人が「自分で決めた」と感じられることが、前向きな一歩につながるのです。

