お金の管理、火の扱いを見直す

それでも受診を拒まれた場合は、「受診するかどうか」だけにこだわらないことも大切です。今、家族として何ができるかを考えてみてください。

たとえば、散歩の機会を増やしたり、お金の管理を見直したりするなど、日常生活を支える工夫は受診をしなくても始められます。また、火の扱いを見直したり、外出時の困りごとを記録しておくことも役立ちます。

こうして生活を見守りながら対話を続けていると、ある日、本人のほうから「一度相談してみようか」と言い出すことがあります。そのときの受診は、無理に勧められたものではなく、本人自身の意思による選択になります。

「あなたは認知症です」と伝えるべきか

認知症と分かったとき、「本人にどこまで伝えるか」は非常に悩ましい問題です。

告知において最も大切なのは、「告知すべきか否か」という形式ではありません。「この人は今、どの程度知りたいのか(あるいは、まだ知りたくないのか)」という本人の心境を見極めることです。

医療には「Right not to know(知らなくていい権利)」という考え方があります。病名に強い抵抗感を持つ人に対して、いきなり「アルツハイマー型認知症です」と告げることは、診断そのものが心を折るほどのダメージを与えかねません。一方で、自分の状態を正確に知り、これからの準備をしたいと考える人もいます。その場合は、あいまいな説明をするより、正面から伝えたほうが「やはりそうだったのか」と納得し、気持ちが落ち着くこともあります。

ここで家族に知っておいてほしいのは、「病名を告げること」と「治療や支援を受けること」は、切り離して考えてよいということです。たとえ病名を知らなくても、あるいは本人が受け入れていなくても、薬を飲んだり、デイサービスなどの介護保険サービスを利用したりすることは十分可能です。

大切なのは、病名というレッテルではなく、本人が今何に困っていて、どうすれば安心して暮らせるかという中身に目を向けることなのです。