※本稿は、安藤なつ(メイプル超合金)、繁田雅弘(認知症専門医)『知っトク認知症 家族と本人が自分らしく暮らし続ける超入門』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
認知症で大切なのは「診断を確定させること」ではない
親の様子がおかしいと感じたとき、多くのご家族は「早く病名をはっきりさせて、本人を納得させて治療を始めたい」と願うものです。しかし、専門医としてお伝えしたいのは、確定診断が必ずしも治療の正解ではないということです。
認知症の診断には時間がかかることが多く、何より本人が「認知症」という言葉を拒絶している場合、無理に病名を突きつけることは逆効果になりかねません。家族の真の願いは「正しい病名」ではなく「一日でも長く穏やかに暮らしてほしい」ということのはずです。
ですからわたしは、あえて確定診断にこだわりすぎず、薬を「今の生活を守る道具」として提案することがあります。「今の生活を続けるためにお薬を使ってみませんか」と、本人の願いに焦点を当てるのです。「病気だから飲む」のではなく「暮らしのために使う」。この視点の転換が、本人が治療を受け入れるきっかけになることも少なくありません。
新薬は、認知症を完治させるものではない
こうした「本人の納得」を軸に据えて考えると、昨今話題となっているレカネマブやドナネマブといった新薬の位置づけも、より冷静に見えてきます。
新薬のニュースを聞いて、「ついに認知症が治る時代が来た」と期待した方もいるかもしれません。しかし、まず理解しておかなければならないのは、これらの新薬も「病気を完治させる薬」ではないということです。
従来の薬が症状を和らげる対症療法だったのに対し、新薬はアルツハイマー型認知症の原因のひとつとされるアミロイドβという脳に溜まったゴミを取り除き、神経細胞が壊れていくスピードを遅らせることを目指しています。つまり、病気そのものを消す治療ではなく、進行を遅らせることを目的とした治療です。
臨床試験では、認知機能の低下を示す評価指標において、およそ2〜3割程度進行が抑制されたという結果が報告されています。これは「失った記憶が戻る」という意味ではありません。「これまで通りの生活ができる期間を、少し先に延ばす可能性がある」という効果だと理解するのが正確です。
この「2〜3割の抑制」という医学的な効果を、実際の生活の中でどう評価するかが、治療を選択するうえでの大きなポイントになります。

