「あえて新薬を使わない」という選択肢もアリ

治療費についても、正しく知っておく必要があります。これらの新薬は製造に高度な技術を要するため、薬剤費だけで年間300万円前後の費用がかかります。

もっとも、この治療には公的医療保険が適用されるため、窓口負担は1〜3割で済みます。さらに、所得や年齢に応じて支払額の上限が決まる高額療養費制度の利用も可能です。これらを活用すれば、実際の自己負担額は月々数万円程度に収まるケースが一般的といえるでしょう。

こうした通院の負担や副作用のリスクを考慮した結果、「あえて新薬を使わない」という選択をする方もいます。もちろん、新しい治療に希望を見いだし、前向きに治療に臨む人も少なくありません。一方で、頻繁な通院や点滴治療を負担に感じる人もいますし、ライフスタイルを治療中心に組み替えなければならないことを望まない人もいます。また、度重なる点滴治療によって、「自分は重い病気なのだ」と強く意識させられることを避けたいと感じる人もいます。

新薬は進行を遅らせる可能性を持っていますが、完治させるものではないので、生活上の制約と天秤にかけたとき、「通院に時間を費やすよりも、残された時間を自分らしく過ごしたい」と考えるのも、尊重されるべきひとつの選択です。

最も大切なのは「医学的な正解」よりも「本人の納得」

最新治療のニュースを見ると、「できる治療はすべて受けたほうがいい」と感じるかもしれません。しかし、認知症の治療で最も大切なのは、医学的な正解よりも「本人が納得して選んでいるか」という点に尽きます。

安藤なつ(メイプル超合金)、繁田雅弘『知っトク認知症 家族と本人が自分らしく暮らし続ける超入門』(KADOKAWA)
安藤なつ(メイプル超合金)、繁田雅弘『知っトク認知症 家族と本人が自分らしく暮らし続ける超入門』(KADOKAWA)

なかには「家族をがっかりさせたくない」という思いから、本心を伏せて気のすすまない治療に応じてしまう方もいます。しかし、周囲の期待だけで決めてしまうと、どこかで無理が生じ、本人が治療を続ける意欲そのものを失ってしまうこともあります。

認知症の治療やケアは、薬だけで完結するものではありません。その人がどんな生活を送りたいのか、どんな時間を大切にしたいのか。そうした思いを軸に、医師や専門家と相談しながら、その時々の最善を選んでいくことが大切です。

薬は、暮らしを支えるための道具のひとつにすぎません。本人とご家族が一緒に考え、納得して選んだ道であれば、それがどのような選択であっても間違いではないと思います。

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