新薬を使える患者は限られる
この新薬は、希望すれば誰でも使えるわけではありません。対象となるのは、日常生活はほぼ自立しているものの、もの忘れが目立ち始めた軽度認知障害(MCI)や、軽度のアルツハイマー型認知症の人です。つまり、比較的早い段階で診断された場合に限られます。
さらに、この治療を受けるためには、認知症の原因がアルツハイマー病であることを確認する必要があります。そのため、アミロイドPET検査や髄液検査などの専門的な検査が行われます。
認知症にはさまざまな種類があります。血管性認知症やレビー小体型認知症など、別の原因による認知症の場合、この薬は効果が期待できません。そのため、原因がアミロイドβによるものかどうかを慎重に確認する必要があるのです。
新薬が患者とその家族の生活へ与える影響
本人がその治療に納得できるかどうかを考えるうえで、避けて通れないのが治療に伴う生活の変化です。これまでの薬は自宅で服用するものでしたが、新薬は医療機関での定期的な点滴投与が必須となります。
レカネマブであれば2週間に一度、ドナネマブであれば4週間に一度のペースで通院し、点滴治療を受ける形になります。なお、この治療は無期限に続けるものではなく、原則としておよそ18カ月間の投与が想定されています。
新薬は早期段階の人が対象ですが、それでも高齢者が一人で通院を続けるのは容易ではありません。多くの場合、家族の付き添いや送迎が必要となります。「数週間に一度、仕事を休んで親を病院へ連れて行く」という生活を長期間続けることが可能かどうか、家族の生活設計と照らし合わせて考える必要があります。
また、副作用の管理も欠かせません。脳のむくみや微小な出血といったリスク(ARIA)に備え、特に治療の初期にはMRI検査を含む安全管理が必要となります。まれではありますが、頭痛やふらつき、吐き気などの症状が出た場合にも、その都度詳しい検査が求められます。
もっとも、こうした副作用は非常にまれであり、多くの場合は症状が出る前に検査で見つかります。ただし、安全に治療を続けるためには、定期的な検査と通院が欠かせないという点は理解しておく必要があります。

