とんでもない苦労が待っていた…
ブラックサンダーとのコラボも、あん巻きの販売強化の過程で生まれた。2017年夏、森会長がマクドナルドとブラックサンダーがコラボしているのを見て、「うちのあん巻きでもコラボができたら」と直感。すぐさま、有楽製菓の河合伴治会長(当時は社長)に直談判した。
森会長と河合会長は豊橋市の経営者の集まりなどで「古くから知った仲」だった。「豊橋のためになるのであれば、やりましょう」と、とんとん拍子に話が進んだ。
皮は既に完成したものがある。餡にブラックサンダーを使えばいいだろうと気軽に考えていたが、そこからは「とんでもない苦労」が待ち受けていた。
ブラックサンダーをそのまま皮に包んでみたが、ブラックサンダーのザクザク感と皮のもちもち食感の相性がどうも良くない。ならばと、ブラックサンダーを砕いて、あんこに混ぜ込んでみた。すると有楽製菓から「チョコレート感が弱い」と突き返された。
つぶあん、こしあん、黄身あん、白あん。それぞれにブラックサンダーを加えては食べ、納得するものができると有楽製菓へ持っていく。だが、どれも有楽製菓を納得させるには至らなかった。
「あんこベースでは無理」和菓子職人苦渋の決断
森会長は、試食会のたびに、挙がった意見を一字一句漏らさぬように記録した。取材時に、有楽製菓からのフィードバックが書き留められたレポート用紙を見せてもらったが、「あんこの味が強い」「皮が強くて、ブラックサンダーの印象が弱い」「存在感はあるが、製造が難しそう」など、率直な意見が十数ページにもわたって細かい文字で書き込まれており、当時の苦労がしのばれた。
「またダメだったか」。製造チームは石川専務を中心に「ああしてみよう」「こうしてみたらうまくいくのでは」と試作を重ねた。悠長に開発している時間はない。お土産需要が高まる年末年始までになんとか間に合わせたい。「一日中、何かいい方法がないかずっと考えていた」。会社の命運がかかったプロジェクト、やめるという選択肢はない。石川専務は、お亀堂の職人の力を結集して、この難題に挑んだ。
「ブラックサンダーにあんこを塗って巻いてみたり、ブラックサンダーの割合を可能な限り多くしたり。試行錯誤を重ねた結果、『あんこベースでは無理だ』という結論に至りました。もうこれ以上ないというくらい試し尽くしたので、吹っ切れて、最終的にはチョコレートだけでいこうと決断しました」
毎日あんこを炊き上げてきた、和菓子一筋30年の和菓子職人としての無念さが滲む。ただ同時に、「これまで一度も扱ったことのないチョコレート」という未知なる素材への探究心も湧いてきたという。

