自然環境保全条例はそれほど高いハードルではなかった
県とJR東海のトップ会談の10日前、大井川流域の首長と川勝知事の意見交換会が行われた。そこで、地元の首長らから「準備工事を認めれば、なし崩しに本体工事につながる可能性がある」「2027年開業にこだわるヤード整備は住民の不信感を増す」などと意見が出たことで、川勝知事としては何としても、準備工事を認めるわけにはいかなかったのだろう。
金子社長は「トンネル本体工事以外のヤードの準備工事ならば認めてもらえる」と確信していたのかもしれないが、当時、大井川流域全体にJR東海への不信感が渦巻いていたことを静岡県は重く見たとみられる。
そもそも、自然環境保全条例はそれほどの強い権限を有するものではないことはJR東海だけでなく関係者すべてが承知していた。
自然環境保全条例は、自然環境保全法に基づいて環境省が全国に指定する「原生自然環境保全地域」「自然環境保全地域」に準ずる地域を指定するために、各都道府県が制定している。条例は地域内の特に貴重な動植物の保全などを求めているが、開発を禁止しているわけではない。
また条例は強制力を持たず、開発業者が協定締結を怠った場合、業者名を公表する程度の罰則規定しかない。自然環境保全条例の規制は緩く、協定締結のハードルは非常に低い。
条例を拡大解釈した県の「ストーリー」
川勝知事は「5ヘクタール以上の開発であれば条例に基づき協定を結ぶ。県の権限はそれだけである」と述べたのも条例の規制が非常に緩いことを承知していたからである。だから、金子社長も大いに期待してしまった。
ただ川勝知事も「準備工事を認める」とはっきりと言わなかったため、事務方と協議した結果、1時間以上もたってから2度目の囲み取材を行い、川勝知事は「自然環境保全条例に基づいて、JR東海の要請却下」を宣言したのである。
静岡県は南アルプスのリニアの準備工事に限って、自然環境保全条例の解釈、運用を拡大して、樹木伐採や斜面補強、濁水処理等の設置などをトンネル本体工事の一部とみなして、準備工事を認めないという「ストーリー」を組み立ててしまった。それだけ注目度が高く、また静岡県との厳しいやり取りの中で、JR東海も何らかの打開策を求めていた。

