「静岡悪者論」が横行する結果に
県の判断に納得できないJR東海は「条例の目的に照らして(静岡県の行政判断は)正当なものではなく、これまで担当課から説明を受けて準備を進めていたこととは違う」と、あえて事務レベル段階の交渉内容を明かした。「変更した経緯と理由を明らかにしてほしい」とする書面を送るなど、水面下で大いにもめたが、静岡県の行政判断を覆すことはできなかった。
この結果、静岡県が準備工事を認めなかったことが、「2027年開業延期」につながったという誤解をほとんどの人が信じ込んで、「静岡悪者論」が横行してしまった。
だが実際は、川勝知事が2020年6月の段階で準備工事を認めたとしても、2027年開業などできるはずもなかった。
トンネル本体工事に入るためには、河川法の占用許可などの手続きが行われなければならない。当時は水資源への影響について議論が行われている最中であり、下流域の市町、利水団体などの理解や同意が全く得られていなかった。
水を巡る問題はことし1月になってようやく、トンネル工事後の水資源に影響があった場合の補償の確認書を静岡県とJR東海の間で締結し、流域市町や利水団体などが了解したばかりである(「『川勝知事不在ではもう戦えない』手放しに2026年着工を喜べない、静岡リニア問題の『悲しすぎる政治的決着』」を参照)。
川勝知事の準備工事却下を伝えたマスメディアは、ヤードの準備工事とトンネル本体工事の違いを理解できていなかったのである。
そもそも2027年開業は「夢のまた夢」だった
そうでなくても「2027年リニア開業」は夢のまた夢でしかなかった。
そもそも静岡工区のトンネル工事は掘削距離が長く、極めて難易度が高い。JR東海は本体工事着手から完成まで「最低でも10年間」を要すると予測していたのだ。
だから、2020年6月の段階で、トンネル本体工事の前段階でしかない準備工事に入っても、2027年までに静岡工区の工事が完了するはずもなかった。仮に2020年6月にトンネル本体工事に入っていたとしても、工事完了は2030年以降になっていた。
それなのに、「準備工事を却下した川勝知事が2027年開業を遅らせた“ただ1人の犯人”」が定説となり、「静岡悪者論」が独り歩きしてしまった。
なぜ、当時、川勝知事自身までが勘違いしてしまうほどのムリな行政判断を行ったのだろうか?
