加えて、久保田社長が大切にしているのは、「鎌倉銘菓であり続ける」ことだ。あえて店舗を全国展開していないことで、地方のお客さんにとっては希少性が高まる。すると、鎌倉土産としてのブランドが、一層強化されるという仕掛けだ。

後日、採用サイトを眺めていると、経営理念に「豊島屋が鎌倉にあることに誇りを忘れず、そのことに誇りをもつこと」と記されていた。

店内は「豊島屋」カラーの柔らかな黄色で満たされていた
筆者撮影
店内は「豊島屋」カラーの柔らかな黄色で満たされていた

「旦那」でありたい

取材の最後、久保田社長はこう締めくくった。

「いい意味で、昔で言う『旦那』でいたいですよね」

その言葉で思い出したのが、2013年(平成25年)に「豊島屋」が「由比ガ浜海水浴場・材木座海水浴場・腰越海水浴場」の命名権を取得したことだ。年間1200万円で10年間の権利を取得したが、なぜか名称は変えなかった。

理由を尋ねると、「地元住民から『海水浴場の名前を変えないでほしい』という声が強く、他社に買われて名称が変わるのを避けたかったから」だと言う。

「目指すのは、鎌倉という街の『旦那』なんですね」と筆者が言うと、「いやいや、そこまではお金がないからできません(笑)ただ、鎌倉を良くしたいな、と思って」と笑う。

左:「豊島屋」がオリジナルで制作した、鎌倉のガイドブック
筆者撮影
左:「豊島屋」がオリジナルで制作した、鎌倉のガイドブック

「極論を言えば、うちで買い物をしなくてもいいので、鎌倉へ足を運んでほしい」

その穏やかな眼差しに、スッと胸に落ちてくるものがあった。

「豊島屋」は「和菓子」を売っているのではない。「鎌倉」を売っているのだ――。取材を終えて本店を後にするとき、ふと振り返ると、街を見守る大きな「鳩三郎」と目が合ったような気がした。

豊島屋 鎌倉本店
筆者撮影
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