味を守るための事業多角化

一方で、積極的に「変えているもの」もある。それが、原材料だ。

「小麦粉も砂糖もバターも、原料の質がどんどん良くなっていますからね。同じレシピではありますが、発売当初よりも美味しくなっているはずです」

また、事業の多角化も積極的に進めており、2014年には自家製パンが楽しめる「鎌倉駅前 扉店」をオープン。続いて、2015年に洋菓子を販売する「豊島屋洋菓子舗 置石」、2022年に焼き立てワッフルを提供する「豊島屋 瀬戸小路」を開業した。

「豊島屋洋菓子舗 置石」で提供している「置石ミックス」ソフトクリームには、「鳩サブレー」が練り込まれている
筆者撮影
「豊島屋洋菓子舗 置石」で提供している「置石ミックス」ソフトクリームには、「鳩サブレー」が練り込まれている

さらに手を広げたのが、冒頭で紹介したグッズ販売だ。「鳩これくしょん」と題し、常時グッズの開発・販売を進めた。過去をさかのぼると、これまでに50種類以上のグッズが生まれている。

「社員には菓子作りに専念してもらいたい」

ケースが名刺入れとしても使える、あぶらとり紙。某掃除機メーカーを彷彿とさせる、消しゴムクリーナー。「鳩サブレー」のマークが浮かび上がる、ペンライト。実用性が高いものから、「なんでこれ作ったの?」とつい笑ってしまう商品まで、バリエーションに富んでいる。なかには思ったよりも売れず、廃盤になってしまったものもあるらしい。

オリジナルキャラクター「鳩兵衛」が歩いて掃除する、卓上クリーナー
筆者撮影
オリジナルキャラクター「鳩兵衛」が歩いて掃除する、卓上クリーナー

グッズの企画からSNSの広報まで担当しているのは、久保田社長本人だ。「社員には菓子作りに専念してもらいたいから」と、発売直前まで従業員もグッズの詳細は知らされていないと言う。

なかでも反響が大きかったのが、2024年の「鳩の日」に販売した「一枚入り缶」だ。限定色の「一枚入り缶セット」を求め、当日は本店から鶴岡八幡宮近くまで、長蛇の列ができた。その結果、前年の倍以上の売上を記録。さらに、このグッズはのちに「2025グッドデザイン金賞」を受賞している。

「鳩サブレー」カラー・青・白・赤の4色をあしらった、専用ケース
写真提供=豊島屋
「鳩サブレー」カラー・青・白・赤の4色をあしらった、専用ケース

「本店限定グッズ」にこだわるワケ

ここまでグッズの展開を広げたのは、「お客様を“お得意様”に、お得意様を“ご贔屓様”に」という先代の考えを引き継いでのことだ。しかし、ここで冒頭の疑問が蘇ってくる。「なぜ、利益の薄いグッズを開発し続けているのか」、そして「なぜ、本店での限定販売にこだわっているのか」という点だ。

そこで、「もう少し価格を上げて全店販売すれば、もっと売上が上がるのではないか」と、率直な疑問をぶつけてみた。

「『売上を上げたいんならグッズだ』っていう意識はありますよ。実際にそうすれば、恐らく今の数倍は売れるんじゃないでしょうか。ただ、グッズはやっぱり『鎌倉に来てほしい』という気持ちだけでやってますからね」