鳩グッズがもたらした追い風

翌年には、日本テレビのドラマ『続・続・最後から二番目の恋』に「鳩(キュウ)ホルダー」が登場。すると、放送翌日に本店には長蛇の列ができ、1日で1000個が売れた。

右:ドラマに登場し、人気が爆発した「鳩ホルダー」
筆者撮影
右:ドラマに登場し、人気が爆発した「鳩ホルダー」

同時期に、SNSでも別の鳩グッズがバズっていた。購入者が「鳩サブレー」や鎌倉の風景がなぞり書きできる「鳩型定規」の画像を投稿すると、8万7000件もの「いいね」がついたのだ。

「使い道に困るが欲しい……」
「これで何を書くんだ(笑)」

ネットでは困惑する声も上がっていたが、商品は即完売。再販したところ、今では累計数千個が売れているそうだ。

「鳩型定規」。筆者も購入してみると、見事にきれいな「鳩サブレー」が描けた
筆者撮影
筆者も購入してみると、見事にきれいな「鳩サブレー」が描けた

業績好調な理由はもう一つある。それは、年に1回全社を挙げて行っている、「鳩の日」イベントだ。「豊島屋」では毎年8月10日を「鳩の日」と定め、当日限りの商品を販売している。この限定商品がすこぶる人気で、近年はイベントの認知度とともに、当日売上が急上昇。メディアで取り上げられることも増えた。

「売らない・広げない」戦略

ドラマや鳩グッズ効果で若年層の顧客を獲得できたことで、今年で創業132年を迎える「豊島屋」は、前期(2025年8月期)に過去最高売上を更新。さらに、今期もその記録を超える見込みだという(同社は売上高を公表していない)。だが、その販売戦略を紐解くと、実は大きく矛盾している点があるのだ。それは、一貫して「売らない・広げない」戦略をとっていることにある。

「基本的にグッズは本店でしか販売していません。すると、量産しないから意外と仕入れ単価が高いんですよね。最初のロットが全部売れても、ギリギリ赤字を免れるレベルで、1ロット追加されたら少し利益が出るくらいです。おかげさまで事業は成長してますけど、これまで以上に急激拡大することは、まったく考えてないですね」

なぜ、売れるときに拡大しないのか。それなのに、なぜ過去最高売上を更新し続けられるのか。この謎を解くためには、「豊島屋」で脈々と受け継がれてきたDNAについて、知る必要がある。

「バタ臭い」創業当時は鳴かず飛ばず

「豊島屋」は、1894年(明治27年)に初代・久保田久次郎氏が創業した。当時の看板商品は、鎌倉で出土した古瓦をモチーフにした、「古代瓦せんべい」だったと言う。

「古代瓦せんべい」の後継商品、「もののふ」
筆者撮影
「古代瓦せんべい」の後継商品、「もののふ」

それから3年後、外国人のお客さんからバターを使った焼き菓子をもらったことで、「この味を再現したい」と「鳩サブレー」を開発。だが、当時の日本人はバターの風味に馴染みがなく、「バタ臭い」とまったく売れなかったそうだ。

鶴岡八幡宮の「八の字」が鳩の抱き合わせになっていたことから、鳩のモチーフを取り入れた
筆者撮影
鶴岡八幡宮の「八の字」が鳩の抱き合わせになっていたことから、鳩のモチーフを取り入れた

しかし、1912年(大正元年)以降に、鎌倉の小児科医が「離乳期の幼児食に最適」と推奨したことで、ようやく売れ始めるように。発売から15年以上の歳月が経ってから支持を広げ、最終的には御用邸からもご用命いただけるほどになった。

「初代は常々、『枝葉を枯らしても幹を枯らすな』と言っていたそうです」

「古代瓦せんべい」という幹を枯らさなかったからこそ、長い年月をかけて「鳩サブレー」という枝葉を諦めずに育てられたのだろう。この言葉が、今の「豊島屋」を形作る、第一のDNAとなった。