1942年6月、日本海軍はミッドウェイ海戦で、主力空母4隻を失い、太平洋戦争の転換点となる大敗を喫した。その敗因は「暗号を解読されたから」と語られることが多い。だが、本当の原因は、日本側の作戦そのものにあったという。戦史研究の第一人者・大木毅さんによる『ミッドウェイ海戦』(文春新書)より、その真相を紹介する――。(第2回)
空母「赤城」上の零戦(1942年06月30日)
写真=Robert Hunt Library/Mary Evans/共同通信イメージズ
空母「赤城」上の零戦(1942年06月30日)

「目的」も「兵力」もバラバラだった

旧ユーゴスラヴィアの出身で、アメリカに亡命して同国の海軍士官となったミラン・ヴェゴという先生がいます。今は、米海軍大学校で教授を務め、戦略・作戦理論を研究しておられ、19世紀から20世紀にかけて米海軍の理論的支柱になったアルフレッド・マハンになぞらえられるほど注目されている人物です。

「現代のマハン」などとも呼ばれているようですね。ヴェゴは、太平洋戦争の諸海戦にも注目し、何冊か、研究書を著しています。そのなかで、ミッドウェイ海戦の日本の作戦は「離心的エクセントリック」だったと批判している。目標が複数あって、そのために兵力が遠心的に分散していくという意味だと思いますが、まさにその通りでしょう。

ミッドウェイ島の占領、米機動部隊の撃滅、アリューシャン列島西部の攻略と、目的が3つもあって絞り込まれていない。さらに「兵力の節用」もできていないとも指摘しています。

ミッドウェイ島の占領と米機動部隊の撃滅をやるのなら機動部隊と上陸部隊に、艦砲射撃を行う支援部隊を付ける程度で十分なのに、どうして、そのはるか後ろを戦艦部隊までがぞろぞろとついて行くのか、というわけですね。

そう、ミッドウェイ作戦では、主力部隊と称して、戦艦を大挙出撃させているのです。

暗号解読が勝敗を分けたわけではない

とどのつまり、作戦目的がはっきりしない上に、それを達成するために必要な戦力についても、きちんと考えた形跡がないという意味のことを、ヴェゴは指摘しているのです。

的を射た批判でしょう。

もっとも私は、ミッドウェイの基地を叩いて、アメリカの空母機動部隊を誘引し、これを撃滅するという山本五十六の基本構想自体は間違っていなかったと思います。そのことに目的と資源を集中していれば、日本側がミッドウェイ海戦の勝者となった可能性は高いでしょう。

いわゆる「白紙戦力」、保有している兵力の数だけを比べれば、日本のほうが優勢だったのですから。

ジョン・キーガンというイギリスの軍事史家も、『情報と戦争』(並木均訳、中央公論新社、2018年)という本の中でこう主張しています。

ミッドウェイ海戦ではアメリカが日本の暗号を解読し、待ち伏せしていたから勝てたといった話があるが、そんなことはない。

実際、手の内を全部読まれていながら、当時の日本側は、米急降下爆撃隊の奇襲を受けるまで、航空戦を優勢に進めていたではないか、と。