メモの必要性に気づかせる技術
「ああ、あります。取引先との打ち合わせを日程違いで記録していて……。あと、課長から言われた修正点も、メモしなかったせいで抜けてしまいました」
「なるほどね。他にも何か思い出す?」
「そういえば出張の交通手段の予約を忘れて、前日に焦りました」
その表情には、どこか照れながらも、「本当に自分は忘れっぽいのかもしれない」という実感が浮かんでいました。
「マエダさん、記憶に脳のメモリを使うのはもったいないよ。人間の脳って、考えるための力はすごいけど、保存する力はそんなに強くない。だったら、覚えておくことは紙やツールに任せて、脳のリソースは“考える”ことに使ったほうがいい。目の前のタスクに集中できれば、もっと実力が出るはずだよ」
「なるほど……。メモをとるのって、忘れないためじゃなくて、考えるためなんですね」
「そう、その通り。だから、メモを“補助脳”だと思えばいい。頼っていいんだよ」
それから数日後の会議。マエダさんはこれまでのように資料に落書きをする代わりに、要点を書き留めていました。
怒らずに人を動かす「共感型マネジメント」
箇条書きのメモはまだ少しぎこちないものの、彼は自分の手で記録を残すことに意味を見出し始めたようでした。
会議後、上司が「今日のメモ、役立ちそう?」と尋ねると、マエダさんは照れくさそうに笑って言いました。「はい。見返したら思い出しやすくて、自分でもびっくりしました」。
人は、他者に「変わりなさい」と言われても簡単には動けません。けれども、「自分はこういう傾向がある」と気づいた瞬間、行動の意味が変わります。マエダさんにとって、メモをとることは注意の結果ではなく、自分を理解し、より良く働くための選択に変わったのです。
上司の役割とは、指示を出すことではなく、本人の現在地に一緒に立ち、自己理解できるように導くことなのかもしれません。そのとき初めて、人は本当の意味で行動を変え始めるのです。いかがでしたか? この例のように、決して怒らないで、まずは現在地を上司と部下で一緒になって眺めてみましょう。きっとこれまでとは全く違う景色が見えるはずです。



