“取り締まりモード”にスイッチON

これを見てわかるように、国税職員は、税のことで困って相談に来る納税者には、誠実かつ丁寧に対応します。そのために来客対応や電話対応について学ぶ接遇研修なども行われており、常日頃から行政サービスの向上に努めています。

しかし、悪質な脱税や滞納をしている人に対してはその限りではありません。税務調査の場で粘り強く追及をしたり、関係者まで調査の手を広げたりと、厳しい対応にチェンジします。これは、警察官が犯罪者に厳しく対峙するのと同じです。

税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典=「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」(国税庁)を加工して作成

かくいう私自身も職員時代、税務署に相談に来られる方には丁寧に応対するよう心がけていましたが、税務調査のときに嘘をつかれたり、隠し口座を見つけたりしたときは“取り締まりモード”にスイッチを切り替えていました。

ある相続税調査のとき、亡くなった被相続人の預金通帳を見せてもらうと、複数回に分けて現金が引き出されていたケースがありました。ATMを使って毎日数百万円ずつ、合計すると8000万円ほどの大金です。これらの事実から想定できるのは、「相続人が、相続税逃れのためにお金を引き出したのでは?」ということでした。そこで唯一の相続人であった長男に直接尋ねたのですが、「父が引き出したと思うが、よくわかりません」といった答えが返ってきました。

このように相続税調査では、亡くなった人を引き合いにして答えを得られないことがよくあります。しかし、ここで国税職員が引き下がることはありません。真実を聞き出すためにさまざまな角度からアプローチをします。

徹底的に質問して話を詰めていく

私は「この人は嘘をついているのか、それとも本当に知らないのか」ということを把握するため、さまざまな質問を重ねていきました。亡くなった父親が入院したのはいつからか。

意識があったのはいつまでだったのか。長男の1日の出勤時間や休憩時間、退社時間など、一つひとつ聞き取りを行ったのです。

すると、だんだんと話のつじつまが合わなくなっていきます。父親が入院していたはずの日にATMの操作があったり、「キャッシュカードは父親が常に携帯していた」と説明していたのに、「ときどき生活費のために父親の口座からお金を引き出すことはあった」と話したり、多くの矛盾が見られます。決定的だったのは、ATMが操作された時間を調べると、すべてが長男の会社の休憩時間と一致していたことです。

これらの点を指摘すると、長男はしばらく黙り込んだ末、観念した様子で「すみません……」と本当のことを話し始めました。やはり長男は昼休みの時間を使って父親の預金を引き出しており、そのお金はすべて銀行の貸金庫に隠していたといいます。理由を尋ねると、やはり「相続税を払いたくなかったから」とのことでした。

その調査を行っていた時点で、父親が亡くなって2年ほど経っていましたが、引き出された現金はすべて手つかずで貸金庫の中に残っていました。「いつ税務署にバレるか不安で、お金を使えなかった」との長男の言葉を聞き、やっぱり脱税は割に合わないものだと深く認識しました。