成長しない多角化事業を切る決断もできない
会社改造の要諦3【赤字の良性と悪性】
ベンチャー初期に出る赤字は、将来が楽しみな「良性」の赤字である。しかし成長せず、当初描いていた将来像が見えなくなれば、続く赤字は「悪性」に転じている。その場合、悪性が再び良性赤字と呼べるようになる大きな戦略転換はありうるのか。それが見えないなら、傷が大きくなる前に撤退するのが最善である。
日本では当時、上場会社が事業別損益を開示することは義務づけられていなかったから、株主にはミスミの多角化事業が赤字であることは見えていない。だから、一つひとつの事業が大して伸びなくても、新事業の数を増やして合計の売上高が大きくなったのを見て、多角化事業全体が順調に伸びているように錯覚することが起きる。
ミスミの多角化新事業の一つは8年前に立ち上げたが、今も赤字だ。そんな事業はもはやベンチャーとは呼べない。単なる失敗事業だ。成長しない多角化新事業をやめさせる決断ができない経営は、会社全体の戦略をダラケさせる《感知項4》。
大企業の社内ベンチャーは「ふるい落とし」が甘くなりがち
会社改造の要諦4【社内ベンチャーの弱点】
大企業の社内ベンチャーは、「探索 → 実験 → 選別 → 本格勝負」という正当な段階を踏んだ上で、もし成功確率が低いとなれば、早めに撤収することが重要だ。大企業の社内ベンチャーでは、そのふるい落としが外部のプロの世界に比べて甘くなりがちだ。社内でベンチャーを行う者も、行わせる者も、両方が素人だと、甘い議論だけで判断ステップを通過させ、継続資金を出してしまう。それを繰り返せば、一件一件が小さくても、経営失敗の被害総額は拡大する。
黒岩は複雑な思いだった。ミスミが多角化戦略に走るなら、初期赤字が大きくなってもいいから、本業の利益で支えることができるうちに思い切った勝負を仕掛け、できるだけ早く高成長期に入らなければならない。それに成功すれば、成長期後半にはかなり大きな事業になり、キャッシュフローもプラスに転じ、次の新事業を育てる余裕も出てくる。ミスミでは、現実にはそのパターンに乗っている新事業が一つもない。
・そもそも、最初の事業選択の段階で、十分に魅力のある事業を選んだのか、怪しい。
・ベンチャー経営陣として、十分な経営技量を持つ経営者人材を配置したのか、怪しい。
・創業社長は事業開始後にハンズオンで立ち入り、十分な戦略指導を行わなければならない。それをしているのか、怪しい。
・事業継続性に疑問が出てきたら、タイムリーに撤収を判断する必要がある。経営者のウデと覚悟の見せどころだ。その準備体制と覚悟はできているのか、怪しい。
経営経験豊かで聡明な幹部がいれば、このようなズルズル経営は起きない。創業社長以外に、ミスミの重要な経営判断に関与している役員は誰だろう。黒岩は取締役会の出席者を思い出してみた。それらしい人はいない。創業社長は一人で社長室に籠もり、訪れる部下も少ないようだ。リスキーな経営を行っているのに、強い指導体制が整っている印象は薄い《感知項5》。
