本業の強みを一切無視した多角化事業
黒岩の即断には彼なりの根拠があった。まず黒岩は30代後半に、日本で独立系と言われるベンチャーキャピタル会社を設立し、その社長を経験していた。日本やシリコンバレーで投資活動を行い、どんなベンチャーが有望かを見分ける経験を積んでいた。プロのベンチャーキャピタリストは、自分が投資したお金が、ある確率で失われてしまうという痛みを味わう中で、投資判断の能力を高めていく。彼にはその経験があった。
要諦1に従って社内に入った黒岩がすぐに感知した問題は、ミスミのこれらの多角化事業がミスミの本業から離れ、まるで関係のない市場に飛んで行って、バラバラな事業を興していることだった《感知項1》。
どの事業も、ミスミの本業である機械工業部品事業の強みを利用していない。加えて、新事業同士もバラバラで、互いにシナジーがない。「事業シナジー」という重要な戦略要素をこれほど無視している経営に、強い違和感を覚えた。
バラバラすぎて相乗効果が全く得られていない
会社改造の要諦2【事業のシナジー(相乗効果)】
事業シナジーが得られるのは、①事業・商品に関連性がある、②共通の開発技術を使っている、③共通の生産基盤を使っている、④販売チャネルが重なっている、⑤顧客が重なっている、⑥既存のブランドイメージを利用できる、⑦勝ち戦に必要な競争要因で強みになるものが他に社内にある、など。
なんとミスミの多角化新事業は、これら①~⑦のシナジー要素のすべてに欠けているのだ。シナジーがなければ、世間の中の誰かがゼロから素手で事業を立ち上げるのと何も変わらない。あるのはお金だけということになる《感知項2》。
黒岩はこの「シナジーなき多角化戦略」を「バラバラ病」と呼ぶことにした。聞いてみると、多角化新事業のすべてが成長しておらず、すべてが赤字かそれに近い状態だという。これほどバラバラな多角化を行えば、当たり前だろう。
それが10年近い多角化新事業戦略の結果だ。なぜ、軌道修正をしないのか。創業社長は今年の株主総会で、依然として同じ戦略を続けるだけでなく、事業数を30~35に増やすと言っていた《感知項3》。

