本業の強みを一切無視した多角化事業

黒岩の即断には彼なりの根拠があった。まず黒岩は30代後半に、日本で独立系と言われるベンチャーキャピタル会社を設立し、その社長を経験していた。日本やシリコンバレーで投資活動を行い、どんなベンチャーが有望かを見分ける経験を積んでいた。プロのベンチャーキャピタリストは、自分が投資したお金が、ある確率で失われてしまうという痛みを味わう中で、投資判断の能力を高めていく。彼にはその経験があった。

要諦1に従って社内に入った黒岩がすぐに感知した問題は、ミスミのこれらの多角化事業がミスミの本業から離れ、まるで関係のない市場に飛んで行って、バラバラな事業を興していることだった《感知項1》。

どの事業も、ミスミの本業である機械工業部品事業の強みを利用していない。加えて、新事業同士もバラバラで、互いにシナジーがない。「事業シナジー」という重要な戦略要素をこれほど無視している経営に、強い違和感を覚えた。