40万円払って自分で調理する「ブルガリのおせち」
そしてもう一方の極にあるのが、常軌を逸した「超・体験型おせち」である。
コロナ禍の真っただ中、百貨店の松屋が2022年正月に向け販売した、同社史上最高額となる40万円のおせち。「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」の「OSECHI BOX & GOLD BOX」だ。
40万円といえば、中古車が買える金額である。さぞかし至れり尽くせりの内容かと思いきや、驚くべきことに、このおせちは「客に働かせる」のだ。セットには最高級のパスタとソース、そしてトリュフが含まれており、購入者は自宅でパスタを茹で、付属の専用スライサーを使って自らトリュフを削りかけなければならない。
合理的に考えればおかしい。「高い金を払って、なぜ自分で調理しなければならないのか?」。しかし、この問いこそが、古い価値観の産物だ。
おいしさ以上に「自分で完成させた」という達成感
監修したルカ・ファンティン氏はこう語る。「出来上がったものをそのまま食べるという従来の考えに、最後のひと工夫をお客さま自身で加えていただき、ユニークな一皿へと昇華させることで、その時間と体験をさらに有意義なものにしていただきたい」
つまり、富裕層が40万円で購入しているのは、高級食材の詰め合わせではない。「ブルガリのシェフになりきる」という演劇的な体験であり、「自らの手で完成させた」という達成感なのだ。
これをマーケティング用語で「プロセス・エコノミー」や「コト消費の深化」と呼ぶのは簡単だが、より本質的にいえば、これは現代の富裕層が抱える「退屈」への処方箋でもある。
何でも手に入る彼らにとって、ただ座って出てくる料理を食べることは日常にすぎない。「少しの手間」と「圧倒的な物語」が加わって初めて、それは特別な「ハレの食事」になる。事実、用意された限定セットは即座に売約済みとなった。

