上海にオープンしたスシローは14時間待ち
しかし、今回は中国国内で日本製品・サービスに対するボイコットや日本に対する大衆動員的な抗議行動は、行われていない(今後、発生する可能性は否定できないが)。
日本の外務省アジア大洋州局長が中国を訪問し、その際の不遜な態度が物議を醸した中国外交部のアジア局長は、局長級会談の直後に在中国の日系企業を訪問し、「中国で安心して事業活動をしてほしい」旨を伝えたと報道されている。これには、日本(外国)企業の撤退加速などによって、中国経済が一段と悪化するのを防ぎたいとの思惑があるのではないだろうか。
12月6日に回転ずしのスシローが上海市に2店舗をオープンさせたが、最大14時間待ち(!)の大盛況であったとされる。中国の日系企業への悪影響は全く感じられない。
考えてみると、中国の人々が日本への渡航(旅行)を控えれば、中国国内の旅行需要が喚起されるかもしれないし、優秀な人材が日本に留学せず、国内に残れば、人材流出が防げるかもしれない。一方、中国国内で反日デモなどが発生すれば、それが反政府・反共産党デモに変質する懸念は否定できない。
習近平「中国経済をこれ以上不安定化させられない」
中国による日本への措置には、「自国経済・社会のさらなる不安定化につながらない」という前提条件が付けられているように思える。この点で、今後気を付けなければならないのは、中国によるレアアースの禁輸措置である。当然、中国の輸出減少につながるが、金額はそれほど大きくはない。小さな代償で日本経済・企業に大きな打撃を与え得るからだ。
ともあれ、2012年9月の尖閣諸島国有化後のような日本製品のボイコットや反日デモが起きないことは、日中双方にとって当然よいことである。ただ、その背景にある中国経済・社会の不安定性や脆弱性という問題にも注視が必要であろう。
2012年の中国経済は実質7.9%成長と、ピークを過ぎたとはいえ、比較的高い成長を遂げていた。翻って、2025年7月~9月は実質4.8%成長に減速し、デフレ下で名目成長率は3.7%にとどまる。若年層(16歳~24歳)の失業率は、直近2025年10月は17.3%と高水準だ。しかもこの失業率の数値は2023年12月以降、従来よりも低く出るように統計の範囲が変更されている。
旧統計の発表が開始されたのは2018年1月であるが、当時の若年層の失業率は、現統計よりも数値が高めに出るにもかかわらず11.2%であった。習近平政権が中国国内で対日強硬策に踏み切らない(踏み切れない)のは、経済・社会的な余裕のなさの表れとするのは言いすぎであろうか?



