直木賞受賞作『何者』など数々の話題作を世に送り出してきた朝井リョウ氏。本作は、今年作家生活15周年を迎えた記念作品だ。テーマは、いわゆる“推し活”に端を発する「ファンダム経済」と、「壮年期以降の男性の男友達」問題。一見無関係の両者が深く繋がる構成になっており、発売から約1週間で発行部数10万部を突破する話題作となった。
レコード会社勤務の47歳・久保田慶彦。留学志望の女子大生・武藤澄香。非正規雇用で働く35歳・隅川絢子。3人の視点が交差する。
「書きたかったのは、人間の行動力の源泉についてです」。朝井氏は語る。「昔からオーディション番組が大好きなのですが、ここ数年、視聴者投票によりデビューメンバーが選ばれる形式の番組が増えましたよね。そうなったとき、私の興味関心が、テレビが発信する情報から受け手の集団心理のほうに移ったんです。投票を有利に進めるために、視聴者は様々な行動に出ます。有力な候補者のファンダム同士で同盟を組んだり、ライバルに関する真偽不明の噂を拡散して情報戦に持ち込んだり。その様子は選挙や戦争のときのそれと酷似していて、私はそこに小説の種を感じました」
そんな集団心理の変遷をビジネスの内部に取り込もうとするレコード会社側の思惑も、久保田の語りで描かれているのが特徴だ。
「“推し活”を推す側の視点で描くフィクションはここ数年でグンと増えましたが、私はどちらかというと、人に何かを強烈に推させるメカニズムに興味があったんです」
本作を貫くもう一つのテーマは「壮年期以降の男性の男友達」、少々乱暴な表現で言えば「おじさんに友達がいない」問題だ。
「“推し活”の文脈で取り上げられるのは、昔から“女性ファンの熱狂”が多かった印象です。ヨン様ブームとか、まさにそうですよね。そして大抵、その熱狂には男性による“そんなことして何の意味があるんだ”みたいな、どこか冷たい視線が注がれていました。でもそれって、男性が常に意味があるものを背負わされてきた歴史が影響していると思うんです。これまでの男性は、働く以外の人生の選択肢がなかった。生産性がない時間や空間との親和性があまりにも低かった。でも、人との繋がりや癒やしって、そういう部分にこそ眠っていたりします。そのあたりの連関も書きたかったんです」
作家生活15年を迎えた朝井氏の有り余るエネルギーが吐き出された一冊。社会現象を読み解く本としても楽しむことができるだろう。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年1月2日号)の一部を再編集したものです。
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