大勢の家族と助け合って生きるアリは、一人ぼっちになると早く死んでしまう。孤立は、どうしてアリの寿命に影響するのか。孤独に対して、人間を含む生物は何らかの共通の反応をするのか――その謎の解明に取り組むのが、古藤日子研究グループ長だ。

「虫がすごく好きというわけではありません。薬学部での勉強を生かして人の役に立つことをやりたかったんです」

古藤氏が目をつけたのが、アリのもつ「社会性」だった。

アリは、自分と血縁関係にある家族(コロニー)と暮らす。コロニーは産卵する1匹の女王アリと多くの労働アリから構成されている。労働アリは巣の中で子育てをするアリと巣の外で餌取りや見回りをするアリに分かれ、その比率は8対2で変わることはない。巣の中の「内勤」は若いアリに限られ、年をとると「外勤」にシフトするのだ。アリの複雑な社会の仕組みについては、まだわからない部分も多い。

『ぼっちのアリは死ぬ――昆虫研究の最前線』筑摩書房/840円+税
古藤日子『ぼっちのアリは死ぬ――昆虫研究の最前線』筑摩書房/840円+税

「アリを1匹だけ捕まえて隔離すると、アリを10匹捕まえて隔離した場合と比べて、はるかに早く死んでしまいます」

しかも、年をとったアリほど孤立ストレスに弱いという。

「人間も喧嘩をすると具合が悪くなったり、逆に他者との関係の中でいいことがあると元気になったりしますよね。社会性がなぜ生物の行動や体調に影響を与えてしまうのか、それを調べるためにアリはモデル生物として優秀です」

古藤氏の研究室では、アリに二次元バーコードを貼り付けて行動を観察。孤立環境やグループ環境で飼育した後にアリを解剖し、体の中の変化を調べている。孤立したアリは体内で酸化ストレスが高まり、肝臓のような役割を果たす器官にダメージが生じていることがわかってきた。

「だからといって人間も孤立すると肝臓の機能がおかしくなるのかというと、まだ調べられていない点がたくさんあり、多くの実験が必要とされています。アリと人間をつなぐ研究は私一人ではできませんが、次世代の礎になるような研究をすることが目標です」

孤立アリの研究は、いつか人間が孤独のストレスを乗り越えるためのヒントを与えてくれるかもしれない。

(インタビュー・文=堀田芳恵 撮影=大崎えりや)

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