物事を多角的に捉えるためには、「鳥の目・虫の目・魚の目」を持てと言われる。時に俯瞰し、時に細部まで観察しつつ、時流も読む。

小松由佳
1982年、秋田市生まれ。東海大学山岳部で登山を学び、2006年、世界第2の高峰K2に日本人女性として初登頂。フォトグラファーに転向し、2013年シリア人男性と結婚。内戦で難民となった夫家族を通して取材を続けている。

小松由佳さん(ドキュメンタリーフォトグラファー)はこの3視点に加え、独自の「内視鏡」も携え、本書を仕上げた。シリアの沙漠で総勢70人の大家族と出会い、その十二男、ラドワンと結婚。内戦で故郷パルミラを追われた難民の家族としてシリアそのものに入り込み、深く取材できたからだ。

過去には、世界第二の高峰K2(8611メートル)に初の日本人女性として登頂に成功したほどパワフル。山から沙漠に下っても、前向きな姿勢は変わらない。難民だけでなく、取材のためならシリア軍兵士や秘密警察ともたった一人で対峙する。そうした経験は本書の下地になっているが、執筆の動機は決して「本にするため」ではないと語る。

「自分のライフワークとして、家族の物語として取材をしてきました。現場に立たずにはいられなかった、書かずにはいられなかった作品です」

シリアでは昨年12月、アサド政権が崩壊する歴史的事件があり、本書をまとめる契機になった。その前後で激変した同国の様子などは、もちろん読みごたえはある。と同時に、首都ダマスカスまで約9000キロメートル離れた、平和な日本とは隔世の感も否めない。イラクやヨルダンなど中東各国に計3カ月ほど滞在したことのある筆者でも、文化的な遠さを感じざるをえない。

小松由佳『シリアの家族』集英社/2200円+税
小松由佳『シリアの家族』集英社/2200円+税

それでも本書が際立つのは、シリア人との「夫婦問題」が赤裸々に描かれていることだ。2022年9月に起きた「第二夫人騒動」は、ベタな表現だが面白い。イスラム教では4人まで妻を持つことが許されているが、夫がそれを希望してきたのだ。

今振り返っても、「写真家としての私」と「女としての私」の間で、「ものすごく揺れ動きましたし、女として傷つきました」。

それはそうだろう。

ただし、単に凹むだけでないのが、小松さんでもある。

「これは体験しないと見えてこない、彼らの文化です。体験できたら、やっぱり表現したい」。彼らへのリスペクトを失わないように意識しながら、一節にまとめた。

(インタビュー・文=富岡悠希 撮影=西田香織)

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