なぜ男女格差はなくならないのか。オランダ・フローニンゲン大学助教授の田中世紀さんは「社会の公平性を実現するためには、女性専用車両など差別的であっても女性優遇策が必要だ」という――。(第1回)

※本稿は、田中世紀『なぜ男女格差はなくならないのか』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

JR東日本中央線の車窓に貼られた「女性専用車」ステッカー
JR東日本中央線の車窓に貼られた「女性専用車」ステッカー(画像=Ystokyo/PD-self/Wikimedia Commons

男性にも逆差別はあるのか

日本にはさまざまな男女格差があり、その格差の多くは女性への差別から生じている。その差別は女性への既存の評価から生じているわけだが、男性に対しても、社会に共有されている評価があるはずだ。

そうすると男性についても、差別によって不当な扱いを受けている事例が多々あるのではないかという疑問がわく。特に今の日本社会は、形だけでも男女格差を是正しようと急ピッチに対策に努めている段階であり、このプロセスの中で男性の方が不当な扱いを受けているということも、あるのかもしれない。

この、いわゆる「逆差別」の問題について、女性専用車両を使って考えてみよう。

ここでの逆(性)差別とは、現在の男性優位の社会状況の中で、女性に優遇措置をとることにより、相対的に男性への待遇が悪くなることを言う。女性専用車両の例では、この公共サービスにおける女性優遇措置によって、男性が不利益を被っているかどうかが焦点となる。

まずそもそも、女性専用車両はなぜ導入されたのだろうか?

東京メトロからは、「女性専用車の導入により痴漢をはじめとする迷惑行為の抑止を図り、女性のお客様のほか、小学生以下のお客様、おからだの不自由なお客様とその介護者の方に安心してご利用いただくことを目的にしております」との説明がなされている。つまり、女性専用車両はそもそも、女性(とその他の社会的な弱者)を守るために導入されたことがわかる。

女性専用車両は「差別」だった

しかし、この女性専用車両の導入によって、朝の通勤ラッシュなどの電車内が混雑する時間帯に、女性は比較的混んでいない車両に乗れるが、男性はその便益が得られないとして、不満を募らせている人もいる。確かに一見すると、性別を基準に、男性が不当な扱いを受けている「差別」であるようにも見える。

そこで、この女性専用車両が男性差別に当たるかについて、差別の条件を使って考えてみよう。

まず、女性だけが使える電車車両ということは、集団としての女性と男性を区別しているので、性差別の第一条件はクリアしている。

では、男性に対する社会的評価が存在するか、という第二条件はどうだろうか。

「女性は痴漢をはじめとする迷惑行為の被害を受けやすい」という社会的な評価がある一方で、「男性は痴漢をはじめとする迷惑行為の加害者になりやすい」という社会的な評価がある。これによって女性専用車両が導入されているので、差別の第二条件もクリアしているだろう。女性専用車両は、「男性だから痴漢するだろう」として、男性すべてに一部の男性に対する評価を当てはめることで、男性が特定の車両に乗り込むのを禁止している。

よって、端的に評価するならば、女性専用車両は「差別」に当たることとなる。