男性は加害者という負のイメージを増幅
「すべての男性が痴漢をする」とは考えていない、誰が加害者になるかわからない中で、「男性の中に加害者がいるだろう」と想定しているだけだ、と反論する人もいるだろう。
しかし、このロジックを一貫させようとすると、誰が結婚し、その後離職するかもわからない中で、「女性の中に離職者がいるだろう」と会社が想定して、女性を男性と同じように雇用しないという選択をすることが、差別には当たらないことになってしまう。
また、「すべての男性が痴漢をする」とは言っていなくても、女性専用車両を導入することで、「男性だから、痴漢をしやすい」という一般的なネガティブ・イメージを強めてしまう側面も少なからずある。
男性専用車両も差別になる
女性専用車両の導入によって「男性イコール加害者」という社会的なイメージが定着しやすくなってしまうのに対抗して、男性専用車両を導入する試みがある。
ここ数年、国際男性デーの頃に男性専用車両の企画を行っている、NPO法人日本弱者男性センターという団体が存在するが、そのホームページには「『男性=強者』ではなく男性にも弱者がいる事を社会的に周知してもらう事と既に弱者男性となっている方々の生活支援を主な活動としております」とある。男性の中には、社会的な評価(理想の男性像)で苦しんでいる人がいて、その人たちを助けたいということだろう。
また、男性専用車両を導入することで、「ありもしない痴漢をでっちあげ困らせる」といった痴漢の冤罪トラブルが、男性の身に発生することを防ぐことができるという意見もある。
しかし、この男性専用車両の導入もまた、すべての女性が痴漢をするわけでも、痴漢をでっちあげるわけでもない以上、女性専用車両と同じく、理論上は女性への差別になってしまう。
かつては多くの国で導入されていた○○専用車両だが、現在では男女平等意識が広く普及した先進国の大半で姿を消している。近年、極右が台頭するドイツの一部地域などに見られる女性専用車両の再導入を目指す動きについても、車内の安心感が得られるとして一部の女性から支持されることもあるが、多くの人々は「男女を分ける空間を作ることは時代遅れである」と否定的に捉えているようだ。

