「あの頃」の感覚に浸りたくなったら
平成を経て令和の時代に入り、昭和はすっかり遠くなりました。人々の価値観も大きく変わり、もはや昭和の感覚は通用しません。それどころか、あの頃の感覚――たとえば根性論を令和に持ち込めば、パワハラになるリスクさえあります。とはいえ、昭和に生まれ育った人間にとって、当時の文化や空気感はとても懐かしく、時折あの頃の感覚に浸りたくなることがあります。かくいう私もその一人です。
かといって、若い世代の前では昭和の感覚を解き放ちづらい。そんなためらいを感じている同世代の皆さんに、救いの手をご紹介しましょう。それが「昭和歌謡」です。
昭和歌謡には、昭和が持つ独特の雰囲気が詰まっています。これを昭和世代が集まってカラオケで熱唱すれば、当時の空気にどっぷり浸れます。歌詞の中には、今の時代にそぐわない表現が含まれることもありますが、同世代同士だけで楽しむのであれば問題ありません。なかなかカラオケに行く機会がなくても、現在はユーチューブなどで昭和歌謡をいくらでも視聴できるので、スマホを見ながら「これって懐かしいよね」と語り合うことができます。昭和を知る者同士が、同じ感覚を共有しやすいのも昭和歌謡の魅力です。
そこで今回は、私も大好きな昭和歌謡について、歴史的な背景を踏まえて分析した新書『昭和歌謡史』をご紹介します。
著者の刑部芳則さんは、日本近現代史を専門とする歴史家です。これまで昭和歌謡史は日本近現代史の研究対象にされてこなかったそうで、「本書は日本史の歴史研究者が書く初の昭和歌謡史本である」と書かれています。昭和初期から戦中・戦後、高度成長期を経て、やがて昭和が終焉を迎えるまでを網羅し、数々の名曲が生まれた背景が歴史家の目から考察されており、楽しみながら歴史も学べる興味深い一冊となっています。
本書を読んであらためて感じるのは、歌謡曲とは時代の世相や当時を生きた人々の心情と切っても切り離せないものだということです。
たとえば、終戦から間もない昭和22(1947)年に発表された笠置シヅ子さんの「東京ブギウギ」について、著者は「失意のどん底から立ち上がろうとする国民感情と重なった」と解説しています。
このヒット曲を生み出したのは、昭和歌謡史を代表するヒットクリエイターである作曲家の服部良一さんです。戦前は哀愁漂うブルースを多く手がけた服部さんですが、戦後復興のメロディとしてブギを選びました。本人はその理由について「明るく浮き浮きしたブギを書きたかった」と語り、そのために「歌うだけでなく、歌って踊って飛び廻る動きのある踊を加えた歌」を作ったと述べています。
「これこそ戦後の日本に、是非、必要だと考えたので、最初のブギは『東京ブギウギ』と心に決めて居た」
まさに「歌は世につれ世は歌につれ」というように、敗戦後の暗い世の中を歌の力で明るくするために、あの軽快でゴキゲンな名曲が誕生したのです。
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