鍋の季節がやってきた。メイン具材のバリエーションを増やすにはどうすればいいか。ライターの大宮冬洋さんが「鍋に合うお勧めの魚」について元水産庁職員の上田勝彦さんに聞いた――。

加熱してもかたくならない魚が鍋に合う

暑くて長い夏が嘘だったかのように肌寒い季節が到来している。手軽で美味しくて体が温まり、野菜もとれる料理を家で食べたい。鍋ものしかない!

「魚の鍋ではタラちりやブリしゃぶをすぐに思いつきますよね。実は、鍋に向いた魚は他にもたくさんあるんです。サワラや新鮮なイワシ、タイ類、キンメダイなど、加熱しても身がかたくならない魚です。しゃぶしゃぶ、鍋、その間のバリエーションとして『煮食い』という食べ方もあります」

ここは鎌倉の住宅地にある「サカナヤマルカマ(以下、マルカマ)」。鹿児島県阿久根市の漁港などから新鮮な魚介類を毎日仕入れて、丸ごと一匹食べることを推奨しているユニークな鮮魚店だ。鍋ものを食べたい筆者に企画・広報担当の狩野真実さんは慣れた様子で答えてくれるが、この手はあなたの近所にある鮮魚店でも使える。今日の気分と予算を伝えて、それに向いた魚を勧めてもらうのだ。

今回取り上げるのはハガツオ。鍋に合う、お買い得の魚です
筆者撮影
今回取り上げるのはハガツオ。鍋に合う、お買い得の魚です

「今日の魚で鍋をするならハガツオがいい。見かけはカツオだけど、身はサワラに近い。うまみが強くてきめの細かい白身で、加熱しても硬くならないところもサワラに似ている。今年は魚の味が良くなるのが全体的に遅れているけれど、ハガツオはすごく良くなってきたね。刺身はもちろん、鍋に向いているし、あらの味噌汁がこれまたうまいんだな」

ハガツオの魅力を熱く語ってくれるのは、元水産庁職員でマルカマのアドバイザーを務める上田勝彦さん。あらゆる魚の美味しい食べ方を提案・指導し、日本の食卓と漁業の現場をつなぐ活動を続けている。「魚の伝道師」とも呼ばれている水産界のレジェンドだ。

表面は煮えて温かく、中は半生でもっちり

さばくときに注意したいのは口。その名の通り、歯が鋭いのだ。キツネのような歯をしているのでキツネガツオという地域もあるらしい。筆者は安易に口元を触ってしまい、もう少しで流血するところだった。上田さんによれば、上あごから包丁を入れて口の周りを切り取ってしまうのが安全らしい。無理をせず、鮮魚店で三枚おろしにしてもらってもいい。あら(頭と骨)を持ち帰るのも忘れずに。

キツネガツオの異名を持つハガツオを持つ上田さん。魚のことなら何でも気さくに教えてくれます
筆者撮影
キツネガツオの異名を持つハガツオを持つ上田さん。魚のことなら何でも気さくに教えてくれます

上田さんが教えてくれるのは、ハガツオの「煮食い」。しゃぶしゃぶよりも厚く切ることでボリューム感が出て、中心は生だが温まった状態(レアステーキ)で味わえるのが特徴。完全に煮てしまうのとは違う。

他にもサワラや新鮮なイワシ、タイ類、キンメダイ、など加熱しても身が硬くならない魚に合う。しゃぶしゃぶ、鍋、その間のバリエーションとして加えたい。お吸い物ぐらいに味をつけただし汁に厚めにそぎ切りにしたハガツオを入れ、表面が完全に白くなったら引き上げて、ポン酢で食べる。しゃぶしゃぶとは異なる料理だ。しゃぶしゃぶのように薄く切らず、7~8ミリぐらいに揃えるのがポイント。

まずは昆布を多めに入れた水を加熱し、沸騰したら昆布を取り出して塩で味付けをし、薄口醤油で調える。8等分にした豆腐を入れたら鍋の準備は完了。30度ぐらいの角度で斜め切りした長ネギも好きなだけ用意して、ハガツオと交互に入れて火の通り加減に注意して食べる。煮過ぎたり煮足りなくて失敗しても、あれこれ言い合えるのが楽しい。しゃぶしゃぶと同じく、エンターテインメント性がある鍋だ。

「表面は煮えて温かく、中は半生でもっちりしている。その両方を味わう料理だからね。一味か七味の唐辛子を入れてもいいよ」