※事例は、プライバシーに配慮し一部加工・修正しています。
発達障害の一つ、ASDとは
近年、自閉スペクトラム症(以下、ASD)ではないのにASDと診断されてしまうケースが増えているように感じます。
ASDは発達障害の一つです。DSM-5-TRと呼ばれるマニュアルから診断基準の一部を抜粋・引用すると「複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥」があるものとされています。具体的には、次の3つの欠陥や欠落があるとされています。
1.「相互の対人的-情緒的関係の欠落」(例:「対人的に異常な近づき方や通常の会話のやりとりのできないこと」)
2.「対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥」(例:「視線を合わせることと身振りの異常」)
3.「人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥」(例:「想像遊びを他者と一緒にしたり友人を作ることの困難」「仲間に対する興味の欠如」)
難しい言い回しが多く、読者の方々はよくわからなかったかもしれません。
しかし、わかりにくいのは現場の専門家にとっても同じで、ASDは臨床現場では注意欠如多動症(ADHD)よりも誤解されている部分が多いと感じています。事例を重ねてわかってきたのは、きちんとASDを理解できるようになると、思っている以上に真にASDの人は少ないのだという事実です。
ASDの有病率は1%前後
その根拠となる理由の一つが、Jakob Grove氏ら(Nature Genetics誌,2019)の大規模なゲノム解析による結果です。これによると、疫学的にはASDの診断有病率は1%前後とされ、遺伝的寄与も強いことがわかっています。
「1%」と聞いて、意外と少ないと思ったのではないでしょうか(疫学的な調査では、その手法によって3〜7%ほどにまで有病率がバラつく)。しかし、精神科における代表的な疾患である統合失調症や双極症1型などの有病率も約1%で、かつ、それらとASDには発症に関連する遺伝子の一部に共通点があることを踏まえると、やはり筆者はこの「1%」を目安として重要視しています。
では、この1%にはどのような特徴があるのか、そしてどのような場合に見誤られてしまうのかを、本稿では取り上げていきたいと思います。

