※本稿は、伊藤壽記『自然治癒力を引き出す』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
チンパンジーと人間の遺伝子はほぼ一緒だが
我々の祖先は約600万〜700万年前に類人猿(チンパンジー)と共通の祖先から分かれて、直立二足歩行を始めたと言われています。
小林武彦さんの著書『なぜヒトだけが老いるのか』(講談社現代新書)によると、遺伝子レベルでチンパンジーとヒトを比較すると、98.5%が同じだそうです。驚きですよね。600万年もかけて生じた遺伝子の違いは僅か1.5%。私たちとチンパンジーの遺伝子はほぼ一緒なのです。
その僅かな違いで、言葉を交わしたり、文明を発展させたりしながら、その存在の違いを大きくさせてきました。
祖先は生きるため、食べるために、四つ足ではなく二足歩行にすることで、手や指を使い食べ物をつかみ取り、道具を作り、その道具を使って色々なモノを作ってきました。その過程で、脳が発達し意思疎通の手段として言葉を話すことができるようになり、文字の誕生へとつながりました。そして現在の文明を手に入れたのです。
何百万年という途方にくれるような歳月を経て、環境に適応しながら人類は「進化」してきました。
そもそもなぜ二足歩行になったのか
改めてここで考えたいのが、我々人類はどうして二足歩行をする必要があったのか、ということです。
ハーバード大学の人類学教授であるダニエル・E・リーバーマンの著書『人体600万年史』によると、ヒトが二足歩行になった理由の一つに、気候変動を挙げています。
引用要約するとこうです。
地球は氷河期に向かって寒冷化が進みつつある中で住処であった熱帯雨林は徐々に縮小していった。好物の熟した果実は以前ほど豊富でなくなり、あちこちに分散し、しかも一定の季節しかとれなくなってゆく。
二足で立ち上がることができれば、より高い所の果実をかき集めることが容易になるだけでなく遠方へでかけることも、必要なもの(道具)を手で持って移動することも可能になり、移動時のエネルギーも節約できると考えた。
チンパンジーやゴリラのようなナックル歩行(地上に手の指を折り曲げて中節の背側を地面につけて歩く四つ足歩行)は、エネルギーを消耗させるからだ。また、二足歩行をすることにより下肢が機能的にも形態的にも発達していく。
という、「二足歩行は自然環境の変化に対する、まさに適応の産物」というものでした。

