※本稿は、廣橋猛『つらさを抱える患者にできることはもっとある 緩和ケアをポジティブに変える本』(日経BP)の一部を再編集したものです。
「がん」を小さな子どもに伝えるストレス
2024年3月、英国のウィリアム皇太子の妻キャサリン妃が、がんであることを公表されたときのこと。
英国内だけでなく、世界的にも人気のあるキャサリン妃の悪い知らせに、多くの方がショックを受けたのではないでしょうか。
この告白に至るまでの間、キャサリン妃はしばらく公の場に出ることなく、その動向は明らかになっていませんでした。そして様々な憶測を生んでいました。
しかし、公表した際に「キャサリン妃が3人の子どもたちに、がんのことをしっかり伝えるため、時間を要したこと」が明らかになり、根拠のない臆測など全て吹き飛びました。
それにしても、まだ40歳代と若いキャサリン妃です。
ご自身ががんになったという事実だけでも相当なつらさを感じていたはずですが、それに加えてまだ小さな子どもたちに、「お母さんががんになった」と話すのは、大きなストレスがあったはずです。
「家族にどう伝えたらいいか」は非常に戸惑った
私も2023年の2月に甲状腺がんと診断されました。
周囲のリンパ節にも転移している状況で、5月に甲状腺全摘手術を受けました。
そのときに感じたこと、私と家族とのやり取りについて触れさせてください。
私はがん患者に多く関わってきた医師ですので、自分自身のがんについて、衝撃は受けましたが、どちらかというと冷静に受け止めた方だと思っています。
ただ、家族にどう伝えたらいいかは非常に戸惑いました。
職場での健康診断で異常が指摘され、勤務の合間に院内で検査を受けて診断されたため、家族には事前に受診のことなどを特に話していなかったのです。いざ、検査の結果で悪性だろうとなったとき、まず、妻にどのように話すか迷いました。
家に帰ると「今日は話さないと」と毎日のように思うのですが、家族団らんの雰囲気を壊してしまうバッドニュースを告げる勇気をなかなか持てませんでした。
悶々とした日が1週間ほど続き、ようやく意を決して妻に伝えました。
「実は、健診で甲状腺が怪しいって言われたんだよね」
「それって、がんってこと?」
「うん、きっとそうだと思う」
「そうなんだ、でも違うかもしれないのよね?」
「いやー、自分も確かにがんだと思うんだ」
「そっか、でもしっかり診てもらわないとね」

