のび太が独り身のまま50歳を迎えたらどうなるか。家族社会学者の山田昌弘さんは「野比家は、『8050問題(80代の親が50代の子の生活を支える問題)』に直面することになる。家族を持てば安心ではなく、家族を持ったからこそ逃れられないリスクがある」という――。

※本稿は、『単身リスク 「100年人生」をどう生きるか』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

サザエさん一家に介護問題は起きるか

まずは、日本の国民的漫画『サザエさん』を思い出していただきたい。終戦直後の1946年に連載が開始された『サザエさん』の家族構成は、波平・フネの夫婦(50代)に、サザエ・マスオの若夫婦(20代)、そして孫のタラちゃん。ここにサザエさんの弟妹のカツオとワカメ(小学生)も交ざり、磯野家は総勢7人の三世代同居を営んでいる。

復刊された漫画「サザエさん」の1~3巻
写真=共同通信社
復刊された漫画「サザエさん」の1~3巻(=2020年01月22日)

みなで和気あいあい仲良く暮らしている風景は、微笑ましいだけでなく頼もしくもある。それぞれが学業や仕事、家事や育児を担う大家族では、家族の誰かがケガをしたり病気になったりしても、大きな不安はないはずだ。誰かしらが家にいて面倒を見ることもできるだろう。

漫画で描かれることはなかったが、仮に将来、フネや波平が年老いて介護が必要になっても、その状況は変わらない。専業主婦のサザエさんが中心となり、それにカツオやワカメも協力し合い、外部のサポートも受けながら、なんとか介護を乗り切れるはずだからだ。

少なくともマスオさんひとりが介護に奔走し、疲れ果てて介護離職しなければならなかったり、ワカメやカツオがヤングケアラーに陥ったりするリスクは少ないだろう。

しかし、現代においてこうした大家族はもはや少数派になっている。2020年の国勢調査によると、サザエさん的な「三世代同居世帯」は全体の9.4%に激減している。その代わり増えたのは、「核家族世帯」の55.3%である。そしてその数値に追いつかんばかりの勢いで増えているのが、「単独世帯」の29.6%である。

野比家に潜む家族リスクとは

では、今度は『サザエさん』に続いて昭和後期より現在まで人気を博している漫画、『ドラえもん』を見てみよう。1969年に連載が始まったこの作品では、当時増えつつあった「核家族世帯」が描かれている。両親2人に、子ども1人の3人家族という典型的な核家族だ。お母さんは専業主婦、お父さんは勤め人。家族3人(+ドラえもん)で食卓を囲む光景は平和そのもので、いつ見ても和む。そんな野比のび家に「家族のリスク」が潜んでいるとは到底思えない。

だが、想像をもう少し未来まで広げてみよう。『ドラえもん』の世界観では、未来はいくつかのバージョンがあるようだが、今回は現実的な路線で行く。もし、のび太があの無気力のまま、勉強にもスポーツにも無関心で、将来ニートになったらどうするか。

おそらくは心優しいパパと、口うるさいが面倒見の良いママは、ひとり息子ののび太を無情にも路上に放り出したりはしないだろう。のび太がのんびりアルバイト程度で小銭を稼ぎつつ、パラサイト・シングルとして実家に寄生し続ける。そんな将来像も容易に想像がつく。

では、そんな非正規雇用者ののび太と、しずかちゃんははたして結婚してくれるだろうか。

のび太が仕事には熱を入れなくても家事や育児をしっかりやってくれる主夫になるならともかく、何事にも無気力のまま日中ダラダラ寝て過ごすならば(仮に小学生時代から成長していなければの話だ)、しずかちゃんにいくら愛情があっても、のび太との結婚生活は大きなリスクを伴うものとなる。