夏の「無自覚な偏食」が一因
今年の夏は歴史的な酷暑でした。4~8月の平均気温は平年より5度も高く、残暑も長く続きました。そのため体が「夏モード」から切り替わらないまま秋を迎えた方が多いように感じます。
外来でも、「秋になっても食欲が戻らない」「昼夜の気温差で疲れる」と訴える50代の男性が増えました。健康診断で異常がなくても、秋バテは十分に起こりますし、放置すれば生活習慣病のリスクも高まります。
私の診療実感ベースでは5割のサラリーマン男性が「秋のだるさ」訴えている印象です。実際、56歳の男性は「だるい」「体重が増えた」と来院し、尿酸値も悪化していました。別の50代男性も“ビールと冷やし中華”中心で明らかな栄養不足。
共通するのは、ソバや果物、冷たい飲み物など食べやすいものだけに偏ることです。一見ヘルシーに見えても筋肉や血液をつくる材料が不足し、“隠れ低栄養”に陥ります。豚汁のように温かく栄養バランスのとれた一皿は、このような秋バテの立て直しに有効です。
“秋バテ返し”の最強食材
秋バテのだるさをどう立て直すか? 答えは意外にも、豚肉。肉全体の36%を占め、世界で最も食べられている肉でもあり、ビタミンB1・鉄・たんぱく質を兼ね備えた“秋バテ返しの最強食材”です。
特にビタミンB1は「疲労回復ビタミン」と呼ばれ、頭や体にエネルギーを素早く届ける働きがあります。夏に糖質ばかりに偏って疲れた体を立て直すのに最適です。厚労省の調査では日本人の約3割がB1不足とされ、この季節にこそ必要な栄養素です。
鶏肉は高たんぱく、牛肉は鉄が豊富ですが、両方の“いいとこ取り”をしているのが豚肉です。私の家では牛2:鶏2:豚6の割合でお肉を使います。子ども3人を含め家族全員、秋バテ知らず。夕食に豚肉料理が並ぶと「今日も大丈夫」と安心できるのです。
私自身も、診察や医局の仕事、学会やメディアでのお話、さらに子育てもあって毎日慌ただしいですが、元気に走り続けられるのは“豚肉の力”のおかげだと思っています(笑)。
豚肉は縄文時代から食べられてきた記録があり、沖縄では「鳴き声以外は全部食べる」と言われるほど生活に根づいてきました。本州では明治以降に養豚が広まり、戦後はたんぱく源として定着。文化的にも栄養的にも“人を元気にする食材”なのです。
“秋バテ太り”は要注意
「秋バテ=痩せて食欲がない」と思いがちですが、実際の外来ではその逆、「太ったのにだるい」という患者さんが少なくありません。疲れた体はエネルギーを欲して、甘い飲み物やアルコールに手が伸びやすくなります。


