頭で考えず、体で動くべし

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林さんの1日

1週間が経過しても結果が出ない。「どうですか」と林は国本を訪ねる。「悩んでいるよ」という返答だったが、国本の眼差しが優しさを帯びているのを林は見逃さなかった。

長居をせずにすぐに引き取る。営業マンとして林は、国本の決心を読んだのだ。

「いけると確信しました。こんなときは、ベタベタしてはいけません。放っておいたほうが得策です。逆に、私がキリンの営業マンだったなら、毎日通い翻意させていましたが」と林は話す。

一方、国本は「林さんは、距離感を持っているから付き合いやすい。つかず離れず、光るときには一気に輝く」と評する。多くの経験をもつ林は、精緻なボクサーだろう。相手のリーチとタイプに合わせ、距離を保ちパンチを繰り出す。近づきすぎたら危険であり、離れすぎたら負ける。あるべき距離とタイミングを熟知し、攻撃時には一気に踏み込む。

結局、結果がわかったのはプレゼンの6週間後だった。待つことも営業である。動いてはならないとき、決して焦れてはならない。

国本は「取引条件は、別の会社のほうが上だった。お金ではなく、林さんという人間で決めました」と明かす。

一方、ベテランの林はこんなことも言う。「最近の若手には、1度断られた先に訪問できなくなる人がいる。また、相手にメリットのある提案がないと営業できない人もいます。笑顔を見せに行くだけでもいい。頭で考えず、体で動くべし」。

(文中敬称略)

林 慶
アサヒビール京滋統括支社京都支店課長。証券会社を経て、1998年入社。名古屋勤務を経て、現職。座右の銘は「素質は努力によって開花する」。
国本忠義
MASUICHI代表取締役。「焼き肉家・益市本店」をはじめ京都市内に焼き肉やホルモンなど7店舗を出店。写真は肉匠益市GIONにて。
(森本真哉=撮影)
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