2013年上期のビール類メーカー別シェアはアサヒビールが37.1%(前年同期比0.2 %減)、キリンビールが35.0 %(同0.6%減)、サントリー酒類が15.1%(同0.6%増)、サッポロビールが11.9%(同0.2%増)。この夏の奮闘が後半戦を左右する。
涙を流すのは秘密の場所で
キリンビールマーケティング新潟支社流通部の日野美奈は、グラウンド脇の“秘密の場所”に営業車を侵入させる。周囲に人がいないことを慎重に確認してからエンジンを止めると、静かに涙を流した。客先では笑顔をつくって堪えていたが、いまは誰にも邪魔されずに自分と向き合えた。
「ヨシ! 今日は今日だ、明日は明日の風が吹く」
やがて、噛んでいたハンカチで涙をふくと、キーを回し再び車を走らせていた。
「言った言わないをはじめ、営業現場では予期せぬことは日常的に起きます。そんなとき、私は泣いてスッキリする。割り切ってしまい、後に引きずらないようにするのです」
自身についてアッケラカンと話す日野は、横浜市出身。キリンに入社したのは2010年。11年9月新潟に赴任した。以来、地元スーパーを複数社担当している。
日野が勝負に出たのは今年2月から。キリンは第3のビールの新商品「澄みきり」を5月14日に全国発売した。発売日に合わせ澄みきりの売り場を店頭につくってもらおうと、2月から各スーパーのバイヤーに提案していたのだ。
低価格の第3のビールは、ビール類の中では唯一成長しているジャンルだが、2つのタイプがある。1つは麦芽を使用していない「その他の醸造酒(発泡性)(1)」で、キリン「のどごし生」、サッポロ「ドラフトワン」などが代表。もう1つは、麦芽を使用した発泡酒にスピリッツを混ぜた「リキュール(発泡性)(1)」で、サントリー「金麦」、アサヒ「クリアアサヒ」などが人気。上期では前者が7.8%減らしたのに対し後者は8%伸ばした。構成比も3対7で後者が圧倒。澄みきりは、後者のリキュールに入り、第3のビール全体でもトップブランドの「のどごし生」とは、カテゴリーが微妙に異なる。「のどごし生と澄みきりを、競合させたくない」(キリン幹部)という意図もあるが、キリンにとっては再浮上の切り札の商品だろう。