第3のビールには愛情がいっぱい
スポット(本社・長岡市)は、「良食生活館」など11店舗のスーパーを新潟県内に展開している。スポット営業部の渋木嘉孝は、酒では4年の経験を持つバイヤーだが、次のように話す。
「ビールならスーパードライ、第3ならばのどごし生と、ナンバーワン商品中心の売り場をつくれば失敗はない。しかし、これではライバル店と差別化ができないのです。売り場の品揃えが一緒ですから。だから、売り場を変える冒険をしたいという思いはいつも持っていた。と、そこに日野さんが澄みきりを大きく扱うという提案を持ってきた。今回は彼女の熱意に動かされました」
結論を述べると、スポットは発売日から11店舗に澄みきりの大きな売り場を設えたのだ。新製品としては過去最大級の扱いとなった。そして、「初動を含め、当初の目標をクリアできました。新製品を大きく扱い失敗した経験は何度もあるが、成功は今回が初めてです」と渋木。2月に動き出した日野は、澄みきりのコンセプトを渋木に伝え、新製品のプロモーションビデオを見せる。さらに、サンプル品をスーパードライと金麦とともに、ブランドを隠して飲み比べてもらった。「わかったのは金麦だけ」と渋木は言うが、「試飲で新製品の評価を得た」と日野は思った。
スポットは、メーカーのPOP広告の店内掲示を基本的に禁止している。「そもそも、売り場とは私たちが独自につくるもの」(渋木)。だが、成功を義務づけられた澄みきりに関しては、掲示が許された。4月末に、「一緒にやろう」と渋木に言われたとき、「頑張ります!」と答え感激した日野はギアが入る。
入社以来、最大の仕事だ。商品の置き方や見せ方、POPの位置など、アイデアを次々と提案する。疲れを知らない若いファイターが、その手数でチャンピオンをコーナーに追い詰めるように。「ただし、自分よがりになると失敗します。泣いて割り切りますけど」と日野。営業とは勢いである。小さな勝利を積み重ね、やがて大きな勝利を導く。
渋木は言う。「スーパーでビール類を買うのは、女性なんです。働くご主人のために、奥様が買っていく。だから、安価な第3のビールには本当は愛情が詰まっている。我々は女性に満足される売り場をつくらなければならない。日野さんの女性目線の提案を期待している」。
日野は、「絶対に成功させたいプレゼンでは、シャツやインナーを含め勝負服で臨みます。それと、カツ丼を食べるかな」と話す。
(文中敬称略)
キリンビールマーケティング新潟支社流通部。東京外国語大学中国語学科卒業、2010年キリンに入社。11年9月より現職。地元スーパーを複数社担当。
渋木嘉孝
スポット営業部。スポットは新潟県内に「良食生活館」など11店舗を展開。酒類のバイヤーとして4年の経験を持つ。写真はピアレマート新和店にて。