未経験でも営業で成功はできる
給料をもらって働く以上、仕事は会社から与えられるものである。組織に身を置いているからには、職種は自分ではそう自由に選べない。辞令は覚悟を決めて受け入れ、やり抜くしかない。たとえ、それが未経験の営業だとしても同じだろう。
私は営業の特性は今も昔も変わっていないと思う。人と人とのつきあいの中から、信頼関係ができあがり、モノが売れるようになっていく。もし、アドバイスをするとすれば、まず自分の担当エリアなり得意先を知るために、徹底して現場に出向くことだ。社名を覚えてもらい、名前で呼ばれるようになればしめたものである。
営業の最前線を当社では「お客様接点」と呼ぶ。顧客のニーズが多様化している今日、マーケットでどういうことが起きているかは、得意先も知りたいはずだ。そこで、キリングループ独自の、また自分が足で稼いだ情報を提供し、一緒に戦略・戦術を考える。それによって、さらに信頼が深まることが実感できれば、営業の面白さもわかってくると思う。
確かに、未経験分野への異動には戸惑いや不安が伴うかもしれない。私自身“寝耳に水”の人事を経験した。18年前、オランダのビール大手・ハイネケンとキリンビールの合弁会社、ハイネケン ジャパン(現ハイネケン・キリン)への営業担当副社長としての出向だ。が、そこで外国人社長と一緒に経営の舵取りをすることで、英語力と国際感覚を鍛えることができた。
キリンの営業担当で1人、印象に残っている人がいる。当社でも工場の合理化が進められていた時代、製造から営業担当への職掌転換が少なからず図られる中で、彼はビール製造部門から移ってきた。30歳前後になって、もちろん、はじめての経験だ。当然、交渉相手としゃべる呼吸だとか、重要な商談に入るタイミングなどはまったくわからない。