アサヒはなぜ、離職率が低いの?

京都出身の国本はアメフトの社会人リーグでディフェンスの選手を経験。「自分はサラリーマンに向かない」と20代で起業した。これに対し千葉県佐倉市出身の林は大学卒業後、大手証券会社に就職し新規開拓営業に従事していたものの、97年11月に勤務先が破綻。98年にアサヒに再就職した苦労人である。

ライバル各社の営業マンも出席する同会定例会合で挨拶を交わし、「スーパードライをお願いします」と、当初は軽く訴える程度だった林。やがて、接待の席を設けて国本にスーパードライを飲んでもらったのは、昨年の夏から。

時には支店長も同席させて、林は国本との人間関係を築いていく。「何杯でも飲めて、肉に合うビール」と国本は商品を評価してくれたが、同時にいくつかの重要なことを林に語り始めた。酔っ払いながらである。

「アサヒはなぜ、離職率が低いの。ウチもさあ、人を育てたいんだよ、林さん。だって、会社って人じゃない……」「いつか、江戸に出店したい。そのためにも人なんだよ」

人材育成という国本が抱える課題の解決を、ビールの取引とは別に林はいまでも担っている。もっとも、経営の悩みを打ち明けること自体、営業マンを信頼している証しでもあった。

新規出店に向け、ビール3社の営業マンがプレゼンをしたのは今年1月。3社とはキリン、ホルモン店にビールを供しているサッポロ、そして林のアサヒ。