医療にも“競争原理”を持ち込む

【新浪】今回の成長戦略では、安倍首相は「スピーディに実行する」といって、自ら陣頭指揮を執っています。実行力を伴うのが、以前と大きく違います。エネルギー、農業、そしてヘルスケアの3つをずっと言い続けておられます。それに少子化対策で産業が生まれてくる。これは福祉にもいえますね。

【田原】ヘルスケアでいえばいまは混合診療もできない。たとえばがん治療のために、保険適用さい新しい治療法を行うと、本がきくはずの検査まで保険適用外となり、全額が自由診療として自費扱いです。そうではなく、保険適用部分は保険を使わせてあげるというのが混合診療です。医師会はこれに反対していますね。

【新浪】混合診療という名前ではないのですが、じつは一部の自由診療に限って保険適用部分の保険適用が認められています。認められる自由診療は、“保険外併用療養費”として、少しずつ増えてはいますが、いまはこのスピードが遅い。もっとこのスピードを上げるためにどうすればいいのかという議論をしています。

【田原】医師会は保守的で、とにかく何でも反対です。いい方法はありますか。

【新浪】医療にも“競争原理”を持ち込んで発展していってほしい。私は、お医者さんたちは“昔ながらの蕎麦屋”ではなく“ラーメン屋”になるべきだと思います。最近は変わりつつあるものの、多くの蕎麦屋さんは伝統を守って、11時ぐらいから始めて8時ぐらいに終わりますよね。でも、新規参入が多いラーメン屋さんには熾烈な競争があって、イノベーションが次々と起きている。医療も24時間でかかりつけに対応できるようなイノベーティブなサービスを提供すればいいのです。

【田原】なるほど。でも、いま日本は産婦人科や小児科は医者が減っています。これらの科は24時間対応の必要があるから、みんな敬遠する。みんなラーメン屋は、つらいから嫌なんですよ。

【新浪】私の息子と娘は、たまたまアメリカで生まれたのですが、発熱したときなどは電話をしたら医者がすぐに来てくれました。私はそこで医者が特別なチャージを取ってもいいと考えています。そうやって優遇しないと、医者のなり手が不足するからです。そのかわり、特別なチャージが払えない場合、子育ての分野に関しては、国も含めた全体で支援していく。そうしたバランスが大事だと思います。

新浪剛史 株式会社ローソン代表取締役CEO
1959年、神奈川県生まれ。県立横浜翠嵐高校卒。81年慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。2002年3月ローソン顧問就任。02年5月同社社長執行役員。05年社長兼CEO。13年5月から現職。
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影 AFLO=写真)
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