ドナルド・トランプとは何者か。元外交官でキヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問の宮家邦彦さんは「自分の名声や評判を高めるための戦術に終始している。ゆえに、彼が他国のために米国の軍事力を行使するハードルはかなり高い」という。ライターの梶原麻衣子さんが聞いた――。
キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問の宮家邦彦さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問の宮家邦彦さん

行き当たりばったりの「トランプ流」

――第二次トランプ政権の外交政策をどうご覧になっていますか。

【宮家邦彦氏(以下敬称略)】第一次政権時は共和党主流の人たちが健在で、トランプ大統領を警戒していましたよね。政権スタッフにもペンス副大統領に近い主流派の政治家が押し込まれていました。閣僚はトランプ大統領の方針と合わず次々とクビにはなりましたが、外交政策にも共和党の伝統的な手法や理念が生かされていました。

ところが第二次政権ではトランプ自身が共和党を乗っ取り、骨抜きにして「トランプ党」に変えてしまいました。それによって伝統的な外交政策を担ってきた人たちは周囲から排除され、手法もより「トランプ流」になった。よく言えばこれまでとは全く違うやり方を模索しているとも言えますが、悪く言えば行き当たりばったりの素人的手法です。

第一次政権で安全保障担当の大統領補佐官を務めたジョン・ボルトンも「第二次トランプ政権には戦略も哲学も政策もない」と言っていますが、これは間違っていないと思います。

通常の外交政策は定石と現実を押さえなければなりません。外交交渉ではボトムアップで下からお互いの要求や条件を積み上げたうえで、最後にトップが出ていくのがセオリーです。が、トランプ大統領は何も決まっていないのに、「プーチン、ゼレンスキー、アラスカで会おう」と発信してしまう。これをやられたら、外交担当者は仰天するよりほかありません。

また、そもそも「プーチンは俺と直に話せば停戦に応じるだろう」というトランプ大統領の認識は、「プーチンは停戦には応じない」という現実を無視しているわけです。現実を無視している状態で、外交ができるはずもありません。