ドナルド・トランプとは何者か。『アメリカの新右翼』(新潮選書)を書いた神戸大学大学院の井上弘貴教授は「アメリカでは文化戦争と言うべき内戦が起き、その深刻さは増している。ただ、その中心にいるトランプ自身には確固たる思想がない可能性が高い」という。ライターの梶原麻衣子さんが聞いた――。
神戸大学大学院の井上弘貴教授
撮影=プレジデントオンライン編集部

トランプ大統領には一貫した思想はない

――トランプ支持者とされる人々や、政権周囲に集まる人々は、陰謀論者やオルタナ右翼といった過剰な人たちばかりではないのですね。

【井上】トランプ支持の思想は突如としてゼロから生まれたものではなく、さまざまな思想的潮流を背景にして姿をあらわしてきました。そこを踏まえたうえでの分析でなければ、トランプ現象そのものを見誤ってしまうでしょう。

日本のインテリ層は多くがリベラルですから、米国右派の思想家やその潮流についてはあたかも存在しないものと見なしがちですが、全くそんなことはありません。

戦後の米国史上、3度目の右派思想の潮流が台頭する、「第三のニューライト(新右翼)」と呼ばれるダイナミックな動きがあり、傍からは一つの勢力にみえる右翼の間でも活発な議論、バチバチの対立が起きています。

――本書のサブタイトルは「トランプ『を』生み出した思想家たち」ですが、あとがきで「本来はトランプ『が』生み出した……」の方が実態に即していると述べられています。

【井上】2016年の大統領選挙でトランプが勝った後、あるいは第一次トランプ政権の最中だったら、そうだったと思います。しかし現在は、むしろサブタイトルに近くなっていると言えます。

右派の中でもいろいろな思想の持ち主がトランプ大統領や政権の周囲に集まって、大統領としての彼に肉付けをおこなっており、しかも本来ならば相矛盾する立場にある多様な人たちが結集して、新しい動きを作り出しています。大統領としてのトランプをつくりだしているのは周囲の人びとなのです。

私はある時期までトランプ氏自身の思想、つまりトランピズムが存在するのではないかと思っていました。確かにディールを好むといったビジネスマンとしての嗅覚が彼にはあります。

しかしどうもトランプ自身には一貫した思想はなく、その時々でこれはと思ったものを政策やメッセージとして採用しているのではないかという考えに今は傾いています。それゆえに、ある意味で節操なくさまざまな人や意見を許容できる面もあります。