ドナルド・トランプとは何者か。第二次安倍政権で内閣官房副長官補と国家安全保障局次長を兼務した兼原信克さんは「彼の交渉はすべてショー化しており、自国の損となることを嫌う。ただそんな相手でも早急に話し合わなければならないことがある」という。ライターの梶原麻衣子さんが聞いた――。
2025年4月16日(現地時間)、赤澤経済再生担当大臣は米国を訪問し、ドナルド・トランプ米国大統領を表敬
2025年4月16日(現地時間)、赤澤経済再生担当大臣は米国を訪問し、ドナルド・トランプ米国大統領を表敬(写真=内閣府/CC BY-4.0/Wikimedia Commons

関税交渉にこれほどまで時間がかかったワケ

――一度は合意したかに見えた関税交渉は、合意文書が作られなかったことで赤沢亮正大臣が繰り返しアメリカにわたり、アメリカ側からの要請もあるなどしてようやく「自動車関税引き下げ」の大統領令が署名されました。

【兼原信克氏(以下敬称略)】赤沢大臣は苦労してよく話をまとめたと思いますが、問題は、トランプ政権がこれまでのような国家間の交渉とは違う論理で動いている点にあります。

通常は担当省庁の官僚が細かい数字を積み上げたうえで、責任者が合意を結ぶという順序ですが、トランプ政権の場合はすべてが国内向けのショー化している「政治交渉」。トランプ大統領の狙いは、派手な交渉成果を米国民に見せつけることにあります。

とにかく交渉を有利にまとめたことにして、自身にとっての最良のタイミングで「アメリカにとって素晴らしい合意が成立した!」と発表できればいいと考えているわけです。

赤沢大臣との交渉担当の一人はベッセント財務長官ですが、彼は金融系の担当なので、貿易交渉では、ラトニック商務長官が真摯に対応してくれています。しかし、最終的にはトランプ大統領から「で、アメリカは儲かるのか?」と言われるばかりで、細部が詰まらない。

安倍政権とトランプの付き合い

――文書化したくないのはお互い様で、日本側も5500億ドルと言われる投資の細部についてはあいまいにしておきたかったようですね。

【兼原】むしろ、細部を詰めようとすればするほど、お互いの認識に齟齬が出てくる状態にありましたからね。USTR(アメリカ合衆国通商代表部)や国務省のスタッフからすれば、話がまったく上から下りてきていないのでしょうから、文書をまとめようにもまとめられなかったのでしょう。

いずれにしても通常の貿易交渉のつもりで考えていてはいけない、ということです。

――兼原さんは第二次安倍政権で内閣官房副長官補と国家安全保障局次長を兼務されています。トランプ政権と安倍政権の付き合いはどのようなものだったのでしょうか。

【兼原】安倍さんは政治未経験だったトランプ大統領の懐に入り込んで、国際政治のイロハなどいろいろ教える信頼関係を築いた。これはご本人の外交能力もありますが、日本の国力をトランプ大統領に認識させたからできたことです。トランプ大統領は、役に立たない同盟国は切り捨ててしまいますから。