由緒ある波佐見焼がポップな皿に

こうしたHASAMIのコンセプトは、中川氏とディスカッションするなかで、地元、自社、自分それぞれの志向の強みや弱みを洗って導き出し、オリジナリティとアイデンティティを再確認して生まれたそうだ。産地問屋として魅力的な商品を地元の窯元や釉薬会社と協力して企画・開発すること。こうした自らのミッションが腹に落ちると、自分がやるべきこと、やりたいこと、やれること、が具体的になった。

「匡平くんは何も知らないところから始めましたが、もともとファッションやデザインに興味がある子でセンスがありましたし、僕が伝えたいことをのみ込むのも早かった」(中川氏)

何も知らなかったからこそ、地元の伝統工芸のよさを客観的に見直して、常識にとらわれないアイデアを思いつき、それを実現に結びつけるバイタリティが彼にはあったのだ。飄々とした雰囲気で商談しにやってくる「匡平くん」は今や波佐見町の名物青年。町の老舗窯元、大新窯の藤田隆彦窯主も、マルヒロの社長の古くからの友人で、匡平氏の熱意を高く買った1人だ。

「昔は150以上あった窯元も今は15~16。価格競争に巻き込まれ、手仕事のよさを伝える商品が売れなくなった。だから、匡平くんの心意気が嬉しかった。技術を発揮できるうえ、波佐見の名を産地として知ってもらおうという気概がよかった」(藤田氏)


2010年に建てた奈良市の本社社屋はグッドデザイン賞など各賞を受賞。今年4月には同市内にある中川政七商店本店もリニューアル。

筒山太一窯の福田友和社長も藤田氏同様、マルヒロとは“匡平くんのおじいちゃんの代からの付き合い”。HASAMIについては「最初はピンとこなかった」というが、従業員たちがこれはいい! と目を輝かせたので、これが今の感覚なのかと理解したという。

たった1年強でHASAMIブランドを成功させたマルヒロは、中川氏にとっても特別な思いがある。

「最初のクライアントで僕も学ぶところが多くありましたし、うまくいってくれてホッとしたのも事実。匡平くんのように、素直に実直に教えたことを実践するのは意外と難しいですが、とてもよい例になってくれました。彼は僕の一番弟子です」(中川氏)