若者が怪しいビジネスにハマる理由
皆さんは「モバイルプランナー」をご存知でしょうか。携帯電話の契約の見直しを提案するビジネスで、2021年頃から学生を中心に流行していました。
よくある携帯ショップのセールスにも思えますが、学生がどこの店舗にも属さず、友達を中心に営業をかけるのが特徴です。そのため、「友達商法」と批判を浴びており、2021年には元締めの業者が総務省に是正命令を受けるなど、厳密には違法ではないこともあるものの「グレーなビジネス」とされています。
私は著書『Z世代化する社会』で、モバイルプランナーの経験がある学生をインタビューし、Z世代の若者がグレーなビジネスに手を染める背景や動機について考察しました。多くの読者は「ラクして金を儲けるため」と予想するかもしれませんが、それは違います。むしろ、モバイルプランナーはビジネスとして極めて収益性が低く、Z世代風に言えば「コスパが悪い」とすらいえます。
では、なぜハマってしまうのか。キーワードは「就活」と「成長」です。
インタビューを実施した学生のひとりは、就活面接で問われる「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)の元となる経験を得るため、別の学生の場合は「成長するため」が足を踏み入れた動機でした。モバイルプランナーを募集する元締めの業者も「就活」や「成長」をフックにして学生を勧誘していました。
部活やアルバイトなどの「真っ当なこと」で成長すればいいではないか、と思われるかもしれません。しかし、昨今の社会の風潮を踏まえると、そう安易に切って捨てられない事情があります。
「起業家礼賛」の風潮の落とし穴
起業家は、メディアなどでもよく礼賛の象徴になります。「なぜ日本にはスティーブ・ジョブスが生まれないのか」との嘆きの声をしばしば耳にすることもありますね。若い起業家を称えるテレビ番組や報道は毎日のように目にしますし、就活で「起業家精神あふれる人材」を求める企業も多いでしょう。大学などの教育機関でもアントレプレナーシップ教育が流行していて、授業にも取り入れられています。停滞感の強い日本で、それを打破する役割に期待が集まるのは理解できます。
しかし、起業をめぐる実態には暗部もあります。GAFAの一角であるFacebookの原点が、大学のサーバーをハッキングして入手した女子学生の身分証明写真で人気投票をするゲームだったことは広く知られています。女性起業家に対するセクハラが横行しており、経産省が調査に乗り出すという報道もありました。
その他にも、UberやAirbnbなど世界に冠たるユニコーン企業が、法的や倫理的に危ういビジネスに手を出していたケースは決して珍しくありません。「山師」という言葉があるように、ビジネスには反倫理的要素や逸脱が入り込みがちだといえます。


