日本人の平均寿命や健康寿命が長い理由
先日、日本人女性の平均寿命が40年連続で世界一になったと報じられました。その背景には、健康的な食文化、肥満の少なさ、平等でアクセスのよい医療制度、清潔で安全な生活環境などの要因があります。
一部には「日本の高齢者は、胃ろうや点滴で不自然に延命されているから、平均寿命が伸びている」といった誤解も見られます。しかし、高齢者に対する延命処置では、平均寿命を大きく変えることはできません。なぜなら平均寿命とは「ゼロ歳児が将来どのくらい生きられるか」という指標であり、余命の短い高齢者の死亡を減らしてもその影響は微々たるもので、幼児や若年層の死亡が減ることの方が全体の平均寿命に大きく影響するからです。
そもそも平均寿命だけでなく、健康寿命においても日本は世界トップクラスです。もし延命処置だけで寿命を引き延ばしているとしたら、健康寿命までが長くなるはずがありません。
ここでいう延命処置とは、「老衰の過程にある高齢者を対象として寿命を延ばすことを主な目的とした医療」を指します。代表的な延命処置は、口から十分な食事ができなくなった患者さんに対して、胃に穴を開けて栄養剤を入れるチューブを通す「胃ろう」の造設です。
無理な延命処置を受けたくない人は多い
延命のために栄養を補給する手段としては、他にも鼻からチューブを通す経鼻栄養、首や鎖骨の下の大きな静脈にカテーテルを入れ高カロリーの点滴を行う中心静脈栄養もあります。さらに、人工透析、人工呼吸、心肺停止時の心肺蘇生も、状況によっては延命処置とみなされます。
人は誰しも死を迎えるため、広い意味ではあらゆる医療行為は延命処置といえます。本来それは医療の使命であり、多くの場合は望ましいことです。しかし、老衰の過程にある高齢者に対して行われる延命処置については、本人の生活の質や尊厳をどこまで守れるのかという問題もあり、必ずしもすべてが望ましいとはいえません。
実際、「自分は無理な延命処置を受けたくない」と考える方は少なくありません。回復の見込みがある場合は別ですが、ただ寿命を延ばすためだけの医療は望まないという気持ちは自然なものです。そのような希望は、特別な法律がなくても実現することが可能です。
私自身、勤務医の頃には毎年10人以上の患者さんを延命処置はしないという方針で看取りましたし、在宅医療に熱心な先生方とのご縁もあって、義母と義父は自宅で最期を迎えることができました。一般的に、医師がお金目当てで延命処置を勧めることはありません。胃ろう造設の診療報酬は引き下げられ、長期入院も医療機関の利益にならない仕組みになっています。

