世界各国で政治・行政によるパンデミック対応が進む中、早くから独自の対策を打ち出し発信を続けてきたのが大阪府知事の吉村洋文氏だ。5月4日に安倍晋三首相が緊急事態宣言の延長を決めた直後には、独自の出口戦略「大阪モデル」を発表して大きな称賛を集めた。なぜ吉村知事の発信力は強いのか――。同氏と関係の深い橋下徹氏が解説する。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(5月7日配信)から抜粋記事をお届けします。
吉村洋文知事
写真=時事通信フォト
新型コロナウイルス対策本部会議後、取材に応じる大阪府の吉村洋文知事=2020年5月5日、大阪府庁

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真のリーダーは情報の「量」ではなく「質」を頭に叩き込む

吉村さんの記者会見やテレビ出演を見れば一目瞭然だが、彼はすべて自分の言葉で語っている。記者会見のときにプロンプターは使わない。大阪府にプロンプターがないという事情もあるが。

このことは吉村さんが、有権者に向けて発する内容について、すべて頭に入れていることを物語っている。

ただし、頭に100%の「量」を入れているのではない。大きな論理、重要ポイントを完璧に入れているのであって、細かな事実関係などは担当の職員に説明をさせる手法を採る。

つまり、リーダーとして必要な情報インプット能力は、頭に入れる情報の「量」を拡大するのではなく、「質」を極めることだ。あらゆる情報を頭に入れる博識タイプはリーダーにふさわしくない。このような博識タイプは、肝心な時に、自分の頭の中にある雑学を延々と披歴するパターンに陥ることが多い。

周囲が「今、そんな話をしている場合じゃねえーよ」と感じているのに、本人は自分の雑学話に悦に入っている。

そうではなく真のリーダーは、自分の頭の中に入れておく情報を的確に「選別する」。リーダーとしての判断に必要な情報、周辺に発信するのに必要な情報を、膨大な情報の中から選別し、情報の「質」にこだわるのだ。

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そして演説原稿を事前に用意すると、どうしても演説の格調や文章の美しさを気にしてしまうし、色々な情報を入れようと力が入ってしまう。事前に何度も何度も修正しながら、どんどん格式の高さや文章の美しさ、情報の多さを極めることにエネルギーを割くようになってしまう。