世田谷区経堂にあるイベント酒場「さばのゆ」は、リピーターが続出する人気酒場だ。2009年の開業以来、人のつながりや文化が醸成される場として、これまで1500回以上のイベントを開いてきた。店主の須田泰成さんは「ゆるい雰囲気を守るには、厳格なルールが必要だ」という――。
ゆるゆるとした空気が流れる「通常営業」の日。常連さんも初めて来た人も何気ない会話に花を咲かせる。

きっかけは行きつけのラーメン店の経営危機だった

イベント酒場「さばのゆ」という名前を聞いて頭に浮かんだイメージは、銭湯の湯上りにフルーツ牛乳を飲む代わりにお酒を飲む、というものだった。あるいは最近増えている、かつては銭湯だった建物を再利用して店舗にしているというケース。だが、「さばのゆ」は、そのどちらでもなかった。壁にドーンと、富士山の銭湯画はあるが……。

プリヤ・パーカー著・関美和訳『最高の集い方 記憶に残る体験をデザインする』(プレジデント社)

では、なぜ「さばのゆ」という名前になったのか? この名前の由来は、経堂の商店街、そして須田さんのこれまでの歩みを抜きにしては語れない。

コメディ界のビートルズと呼ばれる世界的なコメディグループ「モンティ・パイソン」や「Mr.ビーン」の研究家としての著書もあり、これまでに数々の、主にコメディ作品を世に送り出してきた放送作家・脚本家でもある須田さんと経堂の縁を結んだのは、20歳の時に読んだ1冊の本だった。

著者はサブカルチャーの元祖・植草甚一。そこに描かれた経堂の商店街の様子に心惹かれてすぐに引っ越しを決めたという。その後いったんは離れたものの、1997年にふたたび経堂へ。須田さんいわく「飲んで飲まれて人に出会う」日々が始まった。

「僕が経堂で地域活動をスタートした1997年は、消費税が3%から5%に上がった年です。昔ながらの個人店の景気が2、3年のうちにじわじわ悪くなり、同種のチェーン店に顧客を奪われるケースも出てきた。行きつけだった飲み屋のようなラーメン店『からから亭』の当時60代の経営者夫婦が経営の悪化を理由に店を閉めると言い出したのがきっかけでした」